スコーミッシュの森と

    ファーストネーション儀式体験」

 

スコーミッシュのチェカムス川沿いの広大な環境保護区域(420エーカー)の森がチェカムスセンター(旧称ノースバンクーバーアウトドアスクール)と呼ばれる自然学習施設である。7月16日、日本から茨城大学の大辻永(おおつじ・ひさし)准教授と、韓国から朝鮮大学のパク・ヨンシン准教授がこのセンターを訪れ、施設を視察、先住民の方々と交流した。

 

ツリーハウスをイメージして作られたELC。一階部分は雨の日でも野外活動ができるように工夫されている 

 

 革新的なサステイナビリティー教育が評価され、2012年ブルーショアファイナンシャル(旧称ノースショア信用組合)の寄付により、チェカムスセンターの中心にブルーショア環境学習センター(Environment Learning Center、通称ELC)が建造された。ツリーハウスをイメージ、地元産や再利用建材を用いて、最新の環境技術が駆使されている。

 敷地内にはELCの他、宿泊コテージや、先住民コーストセリッシュ族のビッグハウス、鮭のふ化場、体験農場などさまざまな施設が設けられ、サステイナビリティー教育の場として修学旅行・研修・会議・また結婚式などに利用されている。夏はカヤックやラフティング、秋は紅葉、冬は鮭とイーグルを見ることができ、一年中大自然に親しめる。2年前からリステルカナダ社がこの施設を委託管理している。

  

園内にある体験農場 

 

ビッグハウス外面、長老たちの記憶を元に作られた。実際に使われていたものより大きなサイズで、大勢の人たちが利用可能 

 

 今回訪れた茨城大学の大辻永准教授は、1987年、学生時代にインターンシップで初めてこの施設に滞在、鮭が産卵に帰ってくる川の大自然に触れ、衝撃を受けたと語る。准教授となってからは茨城大学の学生を引率し、サステイナビリティー教育カナダ演習として継続利用している。自らの経験から、教育の場としての重要性を見極めている大辻准教授にとって、ここは第二の故郷なのかもしれない。

 ジェネラルマネージャーであるジェイソン・フラートンさんが施設の案内をしてくれた。まず原生林の森を散策。樹齢1000年の赤杉の巨木に直接触れたり、倒れた巨木の空洞を潜り抜けたり、手つかずの自然をそのまま体験できる遊歩道があり、森の中には乳白色(雪や氷河のミネラルが溶けて夏の時期にだけ見られる色)の小川が流れる。熊に遭遇するのも珍しくなく、洞窟もあるという。ここではまるでBC州の太古の世界に舞い戻ったかのような錯覚を覚える。

 

氷河の水が流れる環境保護区

 

保護区の中には樹齢千年を超す巨木がある

 

ビッグハウスの内部、寝袋を持ち込んで宿泊することもできる

 

 ELCでの昼食会では、森を眺めながら、シェフのウエイド・ローランドさん(元シャトー・ウィスラー・ホテルのシェフ)による、果物のスムージー、キヌアサラダ、冷たいガスパッチョ、BC州のサーモン料理や先住民のバノックブレッドを楽しんだ。施設内で育てられたものや近くで採れた新鮮な食材を使っている。この施設は最大140人まで利用可能、アレルギーなどにも柔軟に対応できるとのこと。ここで作られたクローバーの蜂蜜は、蜂の巣のまま味わうことができるものだった。

 ファーストネーション儀式体験では、ビッグハウスの中で先住民のメイハリクサさん(英語名:アリソン・パスカル)から、伝説を聞き、母親の鼓動だというドラムを一緒に演奏しながら歓迎の歌を歌った。また、1886年ガスタウンの大火の際にカヌーで助けに向かったときの祈りの歌なども一緒に歌った。その後、川沿いを散策。薬草やベリーの説明、精霊の伝説を聞くなど貴重な体験をした。

 大辻准教授と共にUBCで行われたSTEM2014学会に参加し、共同でEASE(East-Asian Association for Science Education)などの活動を行っている朝鮮大学のパク・ヨンシン准教授は、赴任先のオレゴンからの参加。「朝鮮大学からも是非学生を連れてきたい」と語っていた。

 バンクーバーから参加した、音楽家マーク佐藤さん、フルート奏者の小西千恵子さん、イベント企画の後藤えむさんらは、森の中で演奏会を開きたいと話していた。「森の中で演奏すると小鳥が集まってくるんですよ」と小西さん。また、ツアーガイドの石川まり子さんは、メープルの森の紅葉と地産地消の美味しいランチつきの日帰りツアーを企画したいなどと構想を膨らませていた。

 

 

ほとんどの山小屋の入り口にはスロープがあり、車椅子対応のシャワーとトイレが備えられている

 

チャカムスセンター敷地内には鮭が成育・遡上する川や水路があるため、州政府や電力会社などと協力して鮭の保護を行っている。その一環としてふ化場も作られている

 

 メイハリクサさんに熱心に質問していた、在バンクーバー日本国総領事夫人の岡田寧子さんは、「今回の体験はファーストネーションの方々の歴史や生活について学ぶ貴重な経験であったとともに、このようなカナダの歴史や大自然の経験が、日本からの若い世代の方々にも共有できることがあれば素晴らしいと思います」と話した。

 リステルカナダ社副社長の上遠野和彦さんは、今回の視察とファーストネーション体験に対して、「バンクーバーから車でわずか一時間で、原生林の大自然に触れることができます。自然と共に生きているファーストネーションの叡智は今の世の中だからこそ、新たな気づきを与えてくれます。環境教育は世界で最も緊急性の高いテーマですので、ノースバンクーバー教育委員会と共に自然を愛し、自然に貢献できる次の世代を育てていきたいと思います」と語った。

 

ビッグハウスの中で歓迎のポーズをとる参加者(右端が大辻永準教授、右から2番目がパク準教授)

 

主目的:ノースバンクーバー学区内の小中学生に対するサステイナビリティー教育および原住民文化の伝承

副次的な利用:学区外と国外の児童生徒による利用。学期外における一般利用(会議、結婚式、ワークショップ、見本市、展示会、同窓会、研修その他)も可能。サステイナブルなホスピタリティーを提供。一般利用による収益は環境教育プログラムに利用される。

所在地:2170 Paradise Valley Rd, Brackendale, BC V0N1H0  チャカムスセンター公式ウエブサイト 

http://www.cheakamuscentre.ca/

所有:ノースバンクーバー教育委員会

管理:リステルカナダ社     

電話:604-682-1111(日本語対応可)

    

(取材 野口英雄)


 

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