オープニングアクトでカエル役に扮する宮さん(上段、最左)Photo credit OSA Images
宮勝彦さん(コスチューム姿)Photo credit OSA Images
宮勝彦:みや かつひこ
東京都出身。元体操男子金メダリスト塚原光男代表の塚原体操センターで氏の子息で同じく金メダリスト塚原直也と共に、幼少より体操競技に打ち込む。1999年のインターハイの跳馬優勝。同年の全日本ジュニア体操競技選手権大会で床・跳馬優勝。明治大学経営学部卒業後、JICA青年海外協力隊体操競技アドバイザーとしてパナマへ2年間派遣される。帰国後に渡米し、カリフォルニア州で体操のコーチとして2年半働く。2009年9月にシルクに入団。
藤巻立樹さん(コスチューム姿)Photo credit OSA Images
藤巻立樹:ふじまき りき
千葉県出身。小学生時代から器械体操を始める。インターハイ、全日本学生体操競技選手権大会への出場経験あり。国民体育会6位入賞。駒澤大学体操部所属時代の2011年に日本でシルクのオーディションを受けて合格。2012年にスポーツアクロ体操競技に転向し、2012年の同競技選手権で男子ペア部門で優勝する。
*スポーツアクロ体操とは、Hand to Hand(人の上で、人が逆立ちをするような独特なサーカスアクト)と似たようなアクロバティックな動きの中で、シンクロ性、表現力、芸術性を競い合うスポーツ。
カナダでの仕事について
宮勝彦さん(以下 宮):15歳の時、初めての体操海外遠征がカナダのバンクーバーでした。それから毎年遠征で同地を訪れ、5回ほどホームステイしましたのでカナダには親しみを感じています。初めて来た時のホームステイ先の少年とはしばらく音信不通でしたが、2009年に偶然ラスベガスで再会。最初はお互い当時の少年とは分からなかったのですが、話をしているうちに判明して驚きました。しかも、その彼も同じシルクで働いていたんです。彼とはモントリオールでまた一緒になりました。
藤巻立樹さん(以下 藤巻):小学生の頃から器械体操を通じて海外に行くことがありましたので、海外で生活したり仕事をすることに興味がありました。渡加した一番の理由は、シルクの一員になれたからです。私たちのショー『トーテム』はツアー・ショーと呼ばれる移動型のテントのショーなので、カナダ以外のいろいろな国にも行きたいです。
『トーテム』の一場面 Photo credit OSA Images
シルクへの入団のきっかけ
宮:シルクで採用される基本的なプロセスは、デモ・ビデオを送付後、選考に通ったらオーディションを受けます。それに受かると、トレーニングへ招待され、ポジションに空きがあれば採用されるという流れです。私の場合はビデオを送ってすぐに採用されたので、プロセスの一部が割愛されました。中には、ずば抜けているトップ・アーティストやユニークなことをしている人もいるので、ビデオを送らなくてもシルクから直々にオファーが来ることもあります。
藤巻:元々、エンターテイメントの裏方を希望していたのですが、就職活動している最中に、友人の勧めでオーディションを受けることになりました。体操を辞めてもまだ動ける自信があったので、自分の可能性に賭けてみようと思いました。オーディションは、アクロバットのスキル、芸術性、各々の得意なスキルなど、総合的に審査されます。オーディション内容は毎回異なるので、その時何が必要とされているかによって審査基準は変わってきます。
現在の仕事の内容
宮:今はツアー中なので一都市に6〜8週間滞在し、週に8〜10回の公演を行います。私の演目はCarapace、甲羅のパートで、オープニング・アクトです。ショーのテーマは「進化」で、進化の始まりをアクロバットで体現しています。メインは4人のカエルですが、他に色の違うカエルや魚、海藻をモチーフにしたキャラクターなどもいます。大きな亀の骨組みに鉄棒が平行に2本備えられ、その下にはトランポリンがあります。メインのアクロバットたちがバーとバーを交錯しながら、時にはトランポリンでジャンプしたりとオープニングからエンジン全開でショーが始まります。現在は演目のキャプテンとして、チームや演目の管理、新しく入ってきたアーティストの指導などをしています。
藤巻:私も鉄棒のアーティストとして出演しております。また、カエルや猿など、このショーのテーマでもある「進化」の言葉に関する重要な動物の役も演じてます。
体操選手からパフォーマーへの転身
宮:体操競技などのスポーツは、ルールに則ってその中でベストなパフォーマンスをします。しかし、サーカスにルールはありません。お客さんを喜ばせる、スリルを与えるという点では、何をやってもいいのです。そういった意味では比較的自由です。シルクにはストーリーがあり、ショーごとにテーマもあります。アクロバットをしながらキャラクターとしての役割もこなします。その点が始めはチャレンジでした。しかし、自分の肌に合っているのか演技は苦ではなく楽しいものでした。ラッキーなことに『トーテム』のロゴの『T』のカエルとして抜擢してもらえました。
藤巻:エンターテイメントのたった1つのルールは、『Be Safe』つまり『安全』です。どんなに凄いことをしても、お客様を怖がらせることは決してあってはならない。だからこそ、私たちは日々のトレーニングを欠かさずに行い、お客様の予想を上回るような驚くことを、安全にお見せできるように努力しています。「エンターテイメントには答えがない」ので、今も毎日がチャレンジです。体操では鉄棒に1人で取り組みますが、ショーでは何人ものアーティストがアクトに存在しているので、常に視野を広げ、安全、かつ、どんなことが起きても対応できるようにしなければなりません。パートナーを怪我させないためにも、自分のことだけでなく、周りの仲間のことも常に意識するところにチームアクトとしての責任がある点が体操の鉄棒と違います。
日本人としてシルクに参加すること
宮:日本人としてのアイデンティティーは、海外にいればどこであろうと感じることだと思います。私の仕事はエンターテイナーですし、世界18カ国から集まった人たちで1つのショーを作り上げています。ですので、日本人として仕事をしているとは普段あまり考えていません。私自身あまりカテゴリーや出身地、人種、宗教などではなく1人の人間としてみんなとつき合っています。育った環境や宗教などを尊重しながら、みんなでいいショーをやっていきたいと思っています。そういう意味では、私たちはすごくモチベーションが高い集団ですし、1つの小さな村として世界を旅しているとも考えられます。自分としては、日本の文化や習慣、考え方、人との接し方、マナーなど、日本で生まれ育ってよかったなと感じます。
藤巻:世界的に有名なカンパニーで働けることはとても貴重な経験です。何より世界の人とたくさん触れ合える最高の仕事場です。日本人としての考え方、文化など、いろいろな部分で(他のメンバーと)確かに違いは出てくると思いますが、メンバーやメンバーの家族も含めてお互いを尊重して支え合っています。いろいろな国の考え方、文化をもっと知りたいです!
これからの抱負
宮:1人でも多くのお客さんに来て頂き、喜んで頂ければ、と思っています。そのために、今ある目の前のことにベストを尽くすことが私にできることです。
藤巻:一瞬一瞬にベストを尽くします。
バンクーバー新報の読者へのメッセージ
宮:日本での公演はまだ数年先になると思います。バンクーバーにいらっしゃる方は、是非、このチャンスを逃さず見にいらしてください。
藤巻:このバンクーバー公演が北米ツアー最後の都市で5月15日〜7月6日まで公演をし、次はニュージーランドに向かいます。「見に行って良かった」と言って頂けるショーですので、シルクがツアーで大陸をまたぐ前に、是非、『トーテム』を見に来て下さい。メンバー一同心よりお待ちしております。
(取材 北風かんな)
『トーテム』バンクーバー公演
5月15日〜7月6日 チケット: 1-800-450-1480
http://www.cirquedusoleil.com/en/shows/totem/