セント・ローレンス・マーケットに出かけるなら、午前中がおすすめ。
週末は地元の買い物客でかなり混雑することもある
イタリア系の住民の多いトロントでは、ピクルスやオリーブの 専門店も人気
(セント・ローレンス・マーケット)
トロントのおもしろさは、その選択肢の多さにある。一本数百ドルのワインがずらりとリストに並ぶ高級店から、寒風の中でも行列ができる屋台のホットドック屋まで、食事をするたびに嬉しい悩みがつきない。しかし、トロントの暮らしを一番身近に感じてみたいなら、ベストスポットはセント・ローレンス・マーケット(www.stlawrencemarket.com)だ。
200年以上の歴史を持つこのマーケットは、ナショナルジオグラフィック誌で「世界一のマーケット」と折り紙を付けられた、まさにトロントの台所。チーズショップや肉屋から、何十種類ものオリジナルレシピのマスタード専門店、オンタリオ州産のワインの試飲室まで、120以上の店が集まっている。土曜日にはオンタリオ州南部の農家から運ばれてくる新鮮な野菜や果物のファーマーズマーケット、日曜日にはアンティークのマーケットも開かれる。
ランチタイムにこのマーケットを訪れるなら、ぜひ食べてみたいのがピーミール・ベーコンのサンドイッチだ。トロントで生まれたこのベーコンは、豚のバラ肉を使う普通のベーコンとは違い、脂肪の少ないバラ肉を使っていて、じんわりと口の中に旨味が広がる。トロントーニアンのソウルフードと言っても大げさではないだろう。
『ナショナルジオグラフィック』誌が絶 |
トロントの名物フードと言えば、 |
広大な地下都市「PATH」でショッピング
1960年代以来、トロントの都市計画の基本は「長い冬をいかに快適に過ごすか」にある。その成果の一つがダウンタウンの地下に広がる「PATH」だ。オフィスビルやショッピングモール、7つの地下鉄駅などを結ぶ地下通路が十数キロにわたって続く。通路にはさまざまな店やレストランが並び、巨大な地下ショッピングエリアが作られている。ゆっくりウィンドーショッピングをしながら歩けば、半日はたっぷり楽しめる。大阪や東京の地下街を知っている人にとっては、あまりめずらしく感じないかもしれないが、自家用車中心で、公共交通や「歩く」ことをあまり重視しない米国の都市造りとトロントとの違いは大きい。
この地下街の中心は、市役所のすぐ近くにあるイートン・センター。クイーンとダンダスの二つの地下鉄駅にまたがって300以上の小売店と2つの大きなデパートが集まっている。アメリカやカナダの有名なカジュアルファッションの店をチェックするなら、ここがベストだろう。
ヨーロッパ系の高級ブランド店でショッピングを楽しむなら、地下鉄ミュージアム駅の北側に広がるヨークビル地区に行ってみよう。エルメスやティファニーなどの大型店が並ぶブロア通り沿いだけではなく、カンバーランド通りやヨークビル通りの小路も見逃せない。アートギャラリーやオーナーのこだわりを感じさせるインテリア小物の専門店などが多いので、ウィンドーをのぞくだけでも心がはずんでくる。ただし、このエリアは地下街ではないので、風の強い日は歩くのがつらいかも。そんな時は、カナダを代表する高級デパート、ホルト・レンフリューがおすすめ。ヨーロッパやアメリカの高級ブランドの多くが出店しており、優雅な雰囲気で買い物を楽しめる。
ヨークビル周辺は小さな横丁にも素敵な店 |
ヨークビルの高級ブティック街を代表する |
高層ビルの立ち並ぶダウンタウンには、もう一つの地下都市広がっている
19世紀のウィスキー工場がグルメ&ショッピングエリアに変身
トロント市内には、ヨークビルだけではなく、キャベッジタウンやリトルイタリー、ケンジントンマーケットなど、いくつものユニークなエリアがある。それぞれ特徴のある「ご近所」の雰囲気が残されているのが、多様都市トロントらしさだ。中でも、最近活気づいているのがディスティラリー歴史地区。かつてはウィスキーの醸造工場などが集まっていたエリアだが、今はおしゃれなレストランやグルメショップを中心に、高級マンションの開発なども進んでいる。
煉瓦造りのレトロな建物の多くは19世紀の典型的な建築物。映画やテレビの撮影にもよく使われている。ビクトリア王朝時代の邸宅は、サンフランシスコなど北米各地に残されていて愛好家も多いが、産業革命の時代の息吹を感じさせる工業用建築物は案外残っていないからだ。一見無骨で面白みがないようだが、実は世界的にも貴重なものなので、じっくり見る価値は十分にある。カフェでゆったりくつろいだり、ショッピングの途中などに、建物の壁や天井に注目してみたい。
19世紀のウィスキー工場跡を再開発したディスティラリー歴史地区。
ユニオン駅周辺から路面電車で約10分
このエリアで地元の人たちにも大人気なのが、チョコレートの専門店ソーマ(www.somachocolate.com)。売られているチョコレートの多くは、ショコラティエが店内で作っている。ガラス張りのミニ工場でショコラティエの仕事ぶりを見ることもできる。ソーマの人気の秘密は、おいしさはもちろんだが、そのユニークな発想。例えば、寒い日には特に嬉しいホットチョコレートに、ジンジャーやチリペッパーの入った「マヤのホットチョコレート」。マヤ族の人たちが本当に飲んでいたのかは不明だが、ホット(熱い)でホット(辛い)なこの飲み物はちょっと試してみたくなる。
このほか、トロントの地ビールの代表、ミル・ストリートの醸造所もこのエリアにある。試飲室やパブ(www.millstreetbrewpub.ca)も併設されているので、ビールの工場見学や飲み比べもできる。さらに、北米初の日本酒の地酒醸造所(http://ontariosake.com)へも立ち寄ってみたい。オンタリオ州の湧水を使った純米酒「泉」は、爽やかな口あたりで、なかなか深みのあるおいしさ。試飲室で燗酒を注文してみると良いだろう。
大人の味のダークチョコレートを使った |
季節によって醸造されるビールの種類が |
劇場から動物園までお楽しみは続く
冬のトロントには、まだまだたくさんの楽しみ方がある。たとえば、カナダ最大規模のトロント動物園(www.torontozoo.com)。カナダの野生動物を集めたエリアでは、真っ白な北極オオカミがキラキラと毛を輝かせながら遊んでいる姿や、寒さにジッと耐えるバッファロー、反対に寒ければ寒いほど嬉しそうなホッキョクグマなど、冬ならではの動物たちの様子がおもしろい。ダウンタウンからは少し離れているが、電車とバスでアクセス可能。
また、トロントはカナダで最も劇場やコンサートホールの充実している街。特にミュージカルでは北米ツアーに先だって、トロントで上演される作品も多い。イートン・センターに隣接したヤング・ダンダス広場にある「T.O.TIX」という店ではトロント中の各種公演の情報を入手できるだけでなく、当日券の割引販売もしているので、意外なプラチナチケットに出会えるかもしれない。 トロントの中心部は地下鉄と路面電車でほとんどの観光ポイントにアクセスできる。まず地下鉄の駅で一日券を購入しよう。公共交通はこの券で乗り放題だ。
(取材・文:宮田麻未 写真:神尾明朗 取材協力:トロント観光局)