広大なオンタリオ湖も岸辺近くは氷に覆われる
厚い氷が積み重なって、神秘的な白い滝に変わったナイアガラのアメリカ滝
冬にトロント周辺で観光といえば、真っ先に思い浮かべるのが「白いナイアガラ」だ。水量調整されている冬場でも、毎秒1416立方メートルという膨大な量の水が流れ落ちるナイアガラの滝。厳冬期でも滝全体が凍り付いてしまうことはないが、舞い上がった水しぶきは空中で凍ってしまうので、滝の周辺には氷が幾重にも積み重なり、神秘的な氷の宮殿のような姿となる。夜のライトアップは冬も続けられており、さまざまな色のライトに浮かびあがる滝の幻想的な美しさは忘れがたい思い出になるだろう。
ナイアガラ観光の基点はトロント。しかし、このカナダ一の大都市の観光的魅力は案外知られていない。「玄関口」として通り過ぎてしまうだけでは何とももったいない。観光客の少ない時期だからこそ、ゆったりと博物館や美術館巡りがおすすめだ。外の気温は低くても、地下鉄と地下アーケードをうまく利用すれば、ほとんど外を歩かなくてもトロント中心部の観光スポットを巡ることができる。
まずCNタワーから「凍れる大都市」を見渡そう
トロントのシンボルといえばCNタワー(HP:www.cntower.ca)。
高さ553.33mで、完成した1976年から37年間は世界一だったが、今は自立式電波塔としては、スカイツリー、広州塔についで第三位だ。しかし、その迫力いっぱいの眺めの素晴らしさは変わらない。特に冬は空気が澄んで見通しが良くなるので、眼下に広がるオンタリオ湖の流氷、水平線の彼方に舞い上がるナイアガラの水煙、雪に彩られた高層ビル群など、夏とは違う雄大さを満喫できる。できれば、ランチを展望台下の回転レストラン「360」でゆったりと味わうのがおすすめ。
なお、CNタワーは、ダウンタウンのユニオン駅から徒歩10分。連絡通路があるので、外を歩かずにタワーの入り口まで行くことができる。
カナディアン・ナショナル鉄道の電波塔として建設されたCNタワー
青いロブスターに会いに行こう!
CNタワーのすぐ隣、2013年10月にオープンした、トロントで今一番新しいアトラクションが「リプリーのカナダ水族館」。大阪の海遊館や名古屋港水族館のような規模の大きな水族館ではないが、ユニークな展示アイディアがいっぱいで、その楽しさは負けてはいない。
この水族館は、冒険家のロバート・リプリー氏が世界中を巡って集めた「変なもの」を展示した、有名な「リプリーの信じようと信じまいと博物館」の系列。水棲生物研究施設としての役割も担う普通の水族館とは違い、エンターティンメント最優先(!)という雰囲気が特徴だ。例えば、巨大な水槽の中に作られたチューブの中を通っていく海中散歩。これは似たものが各地にあるが、その「見せ方」のうまさでは群を抜いている。早すぎず、遅すぎず、絶妙のスピードの動く歩道から、水槽内の景色の作り方、巨大なエイやサメが次々と現れるのもエキサイティング。ゆっくり写真が撮りたいなら、動く歩道から降りて歩いていけるスペースも作られてる。
不思議な青いロブスターは水族館のスター
ゆったりと頭上を泳いでいく鮫やエイ
この水族館のユニークさは、アメリカとカナダの国境に広がる五大湖の生物にもポイントを置いている点。広大な湖の底に豊かな「野生の王国」があることに改めて驚かされる。また、もう一つ見逃せないのがロブスター。プリンスエドワード島など、太西洋岸の地域ではロブスターは名物料理の一つ。殻は真っ赤というイメージだが、あれは海老やカニと同じく、茹でられて赤くなったもの。水中にいるときは、緑がかった赤茶色や黒に近い色のものがほとんどだ。しかし、このリプリーのカナダ水族館には、なんとラピスラズリの宝石のような真っ青なロブスターがいる。もちろん、こんな色のロブスターはめったにいない。百万匹に一匹とか、五百万匹に一匹などともいわれ、統計もはっきりしないようだ。ロンドンの新しい水族館でも、ボストンにあるニューイングランド水族館がオープンしたときも、この青いロブスターが目玉だったとか。ぜひお見逃しなく。
このほか、小さなエイやサメに手で触れることのできるプールや、潜水艦に乗ったような気分になれるアトラクションなども用意されており、子ども連れでも半日たっぷり楽しめる。
直接海の生物と触れ合えるエリアも人気
北米屈指の総合博物館ROM
トロントには、世界最大級のヘンリー・ムーアのコレクションなどで知られるオンタリオ美術館から、世界でも珍しい靴専門のバータ博物館まで、数多くの美術館や博物館がある。カナダの富が集中する都市ならではの豊かさを象徴していると言って良いだろう。膨大な資金を投じて集めたコレクションをまとめて寄贈する富豪も少なくない。中でも、見逃せないのが「ROM」という愛称で知られるロイヤル・オンタリオ博物館(HP: www.rom.on.ca)だ。
1914年にオープンしたROMは、収蔵品の豊かさでは北米屈指。自然史関連の展示と文化史関連の展示に大きく分かれており、カナダ、特にオンタリオ州の姿を総合的に学べるのが特徴だ。自然史関係では、子どもに大人気の恐竜の化石、また鉱物資源の豊かなオンタリオ州ならではの展示も興味深い。
文化史関連では、ファーストネーション(先住民)関連の展示に注目したい。展示品の数はそれほど多くはないが、カナダ全土で、さまざまな生活形態やユニークな文化を育んでいる先住民の歴史、文化を総合的に理解できるような工夫が感じられる。また、ROMには、19世紀の半ば、トロントから現在のカナダ西部へ出かけ、先住民の生活などについて、詳細なスケッチや油絵を残した、ポール・ケインの作品がまとまって残されている。ケインの作品は19世紀の「ワイルドウエスト」の様子を生き生きと描いた興味深いものばかりだ。
さらに、ROMは北米の博物館の中でも中国を中心としたアジア関係のコレクションが非常に充実していることで知られている。14世紀に描かれた當麻曼荼羅をはじめ、明時代の将軍の墳墓、巨大な弥勒菩薩の壁画など、見ごたえのある展示物が多い。
重厚な石造りの本館と斬新なデザインの新館を融合させたROMの建築デザインも話題
カナダ東部のファーストネーション(先住民)の人々が使っていた白樺製のカヌー
明時代の高官の強大な権力を感じさせる墳墓
(取材・文:宮田麻未 写真:神尾明朗 取材協力:トロント観光局)