同講演会は、オタワ、トロントでも開催され、バンクーバーでは、SFU(サイモンフレーザー大学)アジア‐カナダ・プログラムと国際交流基金(ジャパンファウンデーション)が主催、SFUデイビッド・ラム・センター協力で開催された。
講演者は、東京大学社会科学研究所大沢真理教授と、同大学同研究所スティール若希准教授。震災への不公平な政府対応と復興に向けた女性と多様的視点の必要性をテーマに講演した。
他に、在バンクーバー日本国総領事館総領事岡田誠司氏、アジア・パシフィック・ファウンデーションディレクターのクリスティーン・ナカムラ氏、ウーマン・トランスフォーミング・シティ創設者エレン・ウッズワース氏、ブリティッシュ・コロンビア大学日本研究センタージュリアン・ディルケス准教授、SFUデイビッド・ラム・センターディレクターポール・クロウ博士、ビクトリア大学大学院生ナターシャ・フォックス氏が参加、司会進行役はSFU政治学、アジア‐カナダ・プログラムディレクター川崎剛准教授が務めた。
岡田総領事のあいさつ、ナカムラ氏の復興についての所見の後、スティール准教授、大沢教授が共同講演を行い、その後パネルディスカッションが行われた。
ここでは、スティール准教授、大沢教授の共同講演の内容を要約して紹介する。
震災後対応の問題点
東日本大震災発生当時、仙台北部に暮らしていたスティール准教授は、被災者としての経験をしたという。その時の経験によって、日本でのジェンダーと多様性への政策の偏見を実感し、震災後の政府対応の問題点がより鮮明になったと冒頭で紹介した。 震災から2年で導き出された問題点は、日本人の国民性についての考察の必要性、復興における女性的、多様性的視点の欠如、被災地の多様な住民性の現実と政府復興政策との格差、経済優先復興政策のひずみである。
特に、日本では、社会的弱者、または、マイノリティとして位置づけられている、女性、子供、高齢者、障害者、外国人、同性愛者などを排除した政府災害復興政策の問題点が、東日本大震災後、顕著に浮き彫りとなった。さらに、都市部と地方部、所得格差による被害格差の実情も明らかになったと報告した。
問題の要因は、男性主導による政治的構造である。2005年神戸で国連防災世界会議が開催され、日本政府は「第2次男女共同参画基本計画」を策定し、男女の共同参画の重要性を「防災基本計画」で言及したにもかかわらず、その内容を実行してこなかった。2008年の全国知事会調査で47都道府県1747市町村が任命した避難所運営責任者は全員男性であり、震災後の4月11日に設置された東日本大震災復興構想会議でも委員15人のうち女性は1人しかいなかった。その怠慢な対応が、今回の震災でマイノリティの被害を増幅させたとみられる。
問題点解決への取り組み
学術レベルでの取り組みとして、「日本カナダ研究者による学際的ネットワーク」の構築がある。これまで日本とカナダになかった、社会構造的問題と災害復興、防災をテーマにした研究グループで、研究結果の共有やデータの蓄積など幅広く、学術分野を超えた研究が行われている。日本には災害、防災に対する長年の学術的経験的成果があり、カナダには公平で平等な社会構造政策を実践している実績がある。こうした知識と経験を共有し合い、日本のフェミニスト研究者、カナダの日本研究者という違った角度からの東北復興への専門的知識と洞察力で、ジェンダーと多様性において、民主主義的ガバナンス、3.11以降の女性の活動と日本での政策背景の変換の関係を考えることができる。
日本国内でも女性が立ち上がった組織がある。元千葉県知事の堂本暁子氏と健康ネットワークの原ひろ子氏を中心にした「男女共同参画と災害・復興ネットワーク」。2011年6月11日に開催されたシンポジウムを基礎にして設立され、活動を続けている。
2011年6月24日に公布施行された「東日本大震災復興基本法」には、同シンポジウムの提言が組み込まれた。基本理念には、被災地域の住民の意向を尊重し、女性、子ども、障害者等を含めた多様な国民の意見を考慮するとあり、東日本大震災からの復興の基本方針には、男女共同参画の観点から、復興のあらゆる場・組織に、女性の参画を促進すること、まちづくりにおいて、協議会等の構成が適正に行われるなど、女性、子ども・若者、高齢者、障害者、外国人等の意見が反映しやすい環境整備に努めることを盛り込んでいる。
こうした活動を通して、学術レベル、政治レベル、草の根レベルでの、問題解決へ向けた取り組みが今も行われている。
これからの活動
これまでの「健康な日本人男性」を一般的な日本人の基準としてきた復興、減災、防災対策では、日本の現状に適合しなくなっていることは、現実的な問題として明らかである。
今後、災害後の復活と復興に必要なものは、被災地全般での尊厳の持続と民主的な公平性、人口統計データに基づく救命活動、一般的なニーズと特定のニーズの両方への対応、避難所での生活実体の改善であり、行政全体の健全性は、被災の有無にかかわらず自治体を構成する個人、家族、コニュニティの健全性との相互関係によって、少しずつ改善されるものである。震災後の支援において、それらのニーズに最大限に応えることは、システム全体の復興力を高めることに他ならない。復興力の前提条件は、社会全体を通して、脆弱性、不平等性、疎外化の理由を改善することにあると提言している。
多様性を積極的に推進しているカナダの政策を参考にして、日本の多様性のあり方を再考察し、女性と多様性を取り入れた、日本とカナダの共同研究から発信された防災、震災対策は、世界的に応用可能な基準に成り得ることが期待できる。
「日加研究者による学際的ネットワーク」は、去年6月11日ビクトリアで「東北復興への優先課題と復興計画においてジェンダーと多様性を主流化するポスト3.11の課題と機会」を考察するため、第1回ワークショップを開催した。今後も日加での活動を広げていく予定だ。
2015年には仙台で国連防災世界会議が開催される。世界的な国際会議の場で、東北の復興に関する問題点に取り組んで来た成果を発表する準備も進めている。
(取材 三島直美)