今や「日本武道の精神」はすっかりグローバル化。
日本空手道糸東流の道場は世界各地に開設されている。

このグローバル化に先鞭をつけたのが、今回の大会に特別ゲストとして出席していた国際糸東流玄武会・会長兼チーフディレクターの出村文雄氏であった。1965年、単身、アメリカ・カリフォルニアへ渡り、日本空手道糸東流玄武会の道場を開設。人種差別もまだまだ強かった当時、映画界との接点を得て、たちまちヒーローとなった。1968年の「燃えよドラゴン」ではブルースリーに、空手とヌンチャクを教え、スタントマンもこなした。それが一気に話題となり、ハリウッド映画の「ダクタモロの島」で虎などの猛獣と戦うシーンに出演、そして、「空手キッズ」、「ライジング・サン」、「ウォーカー・テキサス・レンジャー」など多数の映画に出演。ショーン・コネリーやスティーブン・セガール、ショー・コスギなどと交流を深め、出村氏自身もハリウッド俳優協会入りして、すでに27年間。同時に、道場をカリフォルニア州に29カ所、さらに、32カ国に道場を開設。門下生は12,000人を数える。空手の指導ばかりではなく、出版、セミナーなどを通じ、日本武道の精神を世界に伝えている。

強さの先に、やさしさ、愛がある。

もちろん、入門者の多くは空手の強さへの憧れが入門の動機だが、それに応える技術を教えると同時に、日本武道の精神性を説いていくという。身近な相談例として、「19歳の練習生の母親から息子が、タトゥーを入れるといいますが私は反対です。何とかならないものでしょうか、すでに19歳ですから本人の意思を尊重しなければいけないのもわかりますが…」という相談があった。それに対し出村氏は「自分が生んだ子どもの肌に傷を入れるのは母として許せないことを真剣に話しなさい。いくつになっても私の子どもは子どもだと、毅然と母の愛をしめしなさい」とアドバイスしたところ、その後本人も納得したとの逸話を話してくれた。日本武道家の説く精神性の本質は「やさしさ」と「愛」なのかもしれない。
近年、若者が起こす悲惨な事件の根底に、自由や独立心を尊ぶあまりの反動、『放置されすぎた危うさ』があるのではないだろうか。母の愛、肉親の愛、コミュニティのあたたかなやさしさで包んで育てる指導があれば防げることも少なくないのではないだろうか。
また、出村氏が説く「勝ち負けだけにこだわるのではなく、負けてこそ強くなる、それは目前の勝負のことだけではなく、人生のあり方、強い生き方を習得することで、人にもやさしくなる余裕が生まれる」、空手の修行によって、体の強さと、精神力の強さが一体となって作られていく、という。まさしく、いま、若い人々に伝えたいメッセージであり、数多くの国々の人々に共感の輪が広がっている。
出村氏は、3年前、脳溢血で倒れた。医者は95%助からないと宣告したほどの重体だった。意識を回復しても左手足が動かない。しかし、空手で鍛えた気力で踏ん張った。必死のリハビリで、なんと3カ月間でほぼ回復。その後、車椅子を使う生活もしばらくあったが、その体験をもとにバリアフリーの住宅改築や、設計の必要性を具体的にアドバイスする講演活動も行っている。「47年間のアメリカ生活、そのご恩返しのつもりです」と、さらりというが、大樹に包まれるようなやさしさを感じる。

日本武道の精神が今ほど求められている時はない。

BC州を中心に、今や、世界各地にも出かけ日本空手道糸東流正晃会の普及につとめるのが、この「佐藤杯」の主催者の佐藤義晃氏だ。「この大会は、勝ち負けを競うというよりも、日ごろの鍛錬の成果を発表し、空手道を学ぶ人たちの交流、親睦を図るのが目的。そして、人種や文化の壁を超えて理解を深めていきたい」という。そうした趣旨は大会運営の随所に見られる。昼のデモンストレーション演技には中国拳法カンフーの道場から50人を超える人が特別出演し、中国の正月にちなんだ獅子舞、カンフーの演武を披露した。その演武には空手と通じるところも多く、興味深く見つめていた。
また、同じ日本武道の「少林寺拳法」、そして、「合気道」のそれぞれの指導者も来賓として招かれ、佐藤師範と共に試合を見つめながら、枠を超え、日本武道の精神性と現代社会で求められていることについて熱心に語り合っていた。
「最近、日本で仏教関係の本がよく売れているらしい。心のよりどころを求めてのことだろう」、「物質文明の行き詰まりを感じ、その先を求めてのことだろう」、「子どものイジメ問題はますます陰湿になっているようだし」、「アメリカの銃乱射事件など、かつて考えられないような事件がおきている」、「自由すぎて、何をしてよいのかわからず、イライラ感が募っている」、「武道の規範はむしろ心地よいのかもしれない」、「迷いに対し、ある種の指針を示すことができるのではないか」、「勝てばよい、というものではないのが、日本武道の本質だ」などなど、武道の鍛錬を通じ、体力、精神力の向上に、それぞれの立場で寄与できるのではないか、という思いを強くしていた。
武道で、礼儀作法は欠かせない要素だが、この「佐藤杯」の大会に出場の選手たちの立ち居振る舞いが物語っている。特に、子ども選手の屈託のない明るい笑顔で、要所要所で示す礼儀作法、また、幼い選手たちの出場までの待ち時間のすごし方など見ていると、忍耐力もついていくのだろうと推察した。礼儀作法や、忍耐力というのは、いま、親が最も教えにくいことだが、武道の環境はそれを、それとなく身に付けさせるものなのだ。
普段の練習にも決して、強制するような教え方ではなく、もちろん体罰などで教えるものではないという。
ここからは、空手についての素人の記者の推測や父兄にインタビューしての思いだが、空手の形や動きの俊敏さは、単純に美しい。これが入門者の心にしみ入り、上達への憧れとなり、空手道の規範や環境に強制されることなく自らが入っていこうとするのではないだろうか。
大会への参加者は日系の人ばかりではなく、むしろ、日本を知らない人が圧倒的に多い。日本特有の精神性や武道の精神性に理解を求めるのは困難なことだと思うが、日本武道の世界的な広がりの現実を見ると、武道の精神性は、文化の違いを超え国境を軽々と超えているようだ。

 

(取材 笹川 守)

 

おめでとう!AWARDS

● Sportsmanship ▶
Watanabe,Takayuki (Seikokai Iashinkan, Tokushima Japan)

● Masters Grand Champion ▶
Yamamura,Junya (Nikkei Centre)

● Junior Girls Grand Champion ▶
Krumwiede,Vienna (WKA Belleview,Wash,USA)

● Junior Boys Grand Champion ▶
Caflisch,Cohan (Northwest Shitokai)

● Men’s Grand Champion ▶
Dalati,Amir (World Top Karate Federation)

● Woman‘s Grand Champion▶
Zolotarova Valentyna(Hayabusa Karate)

● Team Kumite SATO ▶
1:Team BC 2:Team Japan

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。