2019年5月2日 第18号

小さな生きがいはランニング、大きなことでは脳と意識(クオリア)のかかわりを解明し、世界で普通にやっていくことだと語る茂木健一郎さんに、生きがいの脳への働きなどを尋ねてみた。

 

「講演のネタならたくさんありますよ」と、茂木さんは来年のバンクーバー講演へのリクエストを快諾。会場が沸いた

 

•生きがいを感じたときは脳ではどんなことが起こっていますか?

 生きがい、喜びを感じるとドーパミンが放出され、それが前頭葉に行き、よりその生きがいを感じるような出来事を増やしたり、行動をより増やそうというように回路がつなぎ変わります。ドーパミンによって生きがいの強化が行われます。

•生きがいは好きなことと関わっていますが、好みは先天的、後天的な要因とどうからんでいますか?

 好きなことはDNAに書かれていることもあるけれど、それプラス経験、文化、人生の履歴によっても違う。逆に言うと、本来その人が生きがいを感じる可能性があるのに、それを経験していないので、それを見つけていない場合もある。自分の生きがいと出会っていない場合もよくあります。

•他の人の生きがいがもっと高まるように周囲から働きかけるには?

 子どもも高齢者も同じなんですが、何かに挑戦して、それができたときにほめてあげること。あるいは挑戦すること自体を認めたり、ほめたりするのが一番いい。他人に認めてもらうとドーパミンが何倍にもなって出てくるんですよね。子どもが本を読んでいるときに、「偉いね」とか「楽しい?」って言ってあげると本を読むことが強化されるんですが、逆に、例えばおじいちゃんが「ランニングする」って言い始めたときに、「年甲斐もなく、そんなこと!」って言うのは最悪なんです。「じゃあ、『サンラン』(*バンクーバーのマラソン)にチャレンジしてみたら?」と周りから背中を押してあげることが大切です。

 ダメ出ししちゃいけない。そのためには「らしさ」にとらわれてはいけない。「そんなことをするのはその人らしくない」って言いがちなんですけど、でもそうじゃなくて、「その人らしくないこと」こそが、むしろ新しい生きがいにつながっていく可能性があります。

•日本人の精神性を探ることと、脳と意識の関係の研究は、どのようなつながりを持っていますか?

 もともと僕が研究しているのは意識、感覚、クオリアというものなんですけど、日本人のクオリアはとても細やかで、同じクオリアと言っても、日本人が思い浮かべるのと外国人が思い浮かべるのではちょっと違っていたりする。だから日本人の独特の感性なんかも研究すると、とても役立つんです。

•日本人と外国人では脳の構造が違うということですか?

 脳の構造というよりも、脳の使い方が違う。日本人の親から生まれてもカナダで生まれてカナダで育つと、こちらの人の使い方になるのかも知れませんが、気の細かさが違うというか。

•ストレス解放の最も効果的な方法は?

 講演でも話したデフォルト・モード・ネットワークを活性化させる方法として、散歩とかお風呂・半身浴や、ゆっくりぼんやりすることが一般的にはいいとされています。

•講演会でも述べられましたが、バンクーバーという地域についてもう一言、茂木さんの所感を聞かせてください。

 一番日本に近いし、アジアへのゲートウェイになっている、新しい文化が生まれる場所だと思っている。これから面白い可能性があるんじゃないかなと思うんですけどね。僕が最初に1978年に来た時とまったくすべてが違ってきている感じがするんですよ。日本とカナダを取り巻く環境が。だからこれからじゃないかと思うんですよね。バンクーバーのルネッサンスは。

(取材 平野香利)

 

講演会での質疑応答の際、茂木さんは質問者へ盛んにツッコミを入れながら面白く回答

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。