2019年2月21日 第8号
カナダ外務省によるCPTPPセミナーがブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーで2月11日に開催された。 セミナーの目的はCPTPPを利用してアジア太平洋地域とのビジネスを発展させるための理解を深めること、外務省が行っている支援を紹介すること。カナダ国内ではまだ、その可能性についてあまり理解されていない。これまでアメリカとの貿易に依存してきたカナダにとって、言語や文化が異なるアジア・太平洋地域との貿易をためらう中小企業にCPTPPは絶好の機会とカナダ政府は強調する。
『Seize the Moment』「この機会を逃さずに掴み取れ」。参加したカナダ閣僚が連呼したキャッチフレーズには、CPTPPがカナダにとって歴史的なビジネスチャンスであるというメッセージが込められている。
出席した日加関係者でノースバンクーバーを背に記念撮影。左から、バーニー駐日カナダ大使、APFCベック氏、シャンパーニュインフラ相、カー国際貿易多様化相、ウィルキンソン漁業海洋相、ダン・ルイミー議員(ピットメドウ-メープルリッジ選挙区)、 BCチョウ貿易担当相、シンディ-イブ・ブラッサ氏(カナダ外務省)、石兼大使。2019年2月11日、BC州バンクーバー
CPTPP (TPP11とは)
正式名称は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(The Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)」。略してCPTPP、もしくはTPP11と呼ばれるアジア・太平洋地域11カ国による自由貿易協定。
オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムが参加している。
構想当初はアメリカを含む12カ国での協定を目指していたが、2017年にアメリカが離脱を表明、11カ国による協定に変更された。名称も「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」からCPTPPに変更となった。
協定は2018年10月31日までに日本(同年7月)、カナダ(同年10月)を含む6カ国で国内批准を終え同年12月30日に発効。1月にはベトナムも含まれた。
参加国を合わせた市場規模は約5億人、アジア・パシフィック・ファンデーション(APFC)会長兼CEOステュワート・ベック氏によると、国内総生産(GDP)は世界全体の15・4パーセントを占めるという13・8兆ドルの巨大自由貿易圏となる。
カナダはCPTPP署名により、昨年更新した新北米自由貿易協定(USMCA)、2017年9月に発効した28カ国(イギリスを含む)が参加するカナダEU包括的経済貿易協定(CETA)を含め、世界最大の自由貿易国となり、G7(先進7カ国)で唯一全6カ国と自由貿易協定を締結した国となった。
日加間貿易への貢献
日加間貿易に焦点を当てると、カナダ外務省によれば2017年のカナダの商品輸出は118億ドル、輸入は175億ドル、サービスの輸出は15億ドル、輸入は24億ドル。カナダにとって日本は4番目の貿易相手国で、日本からの2017年の直接投資は296億ドルとアジアの国としては最大、世界でも6番目と重要な位置を占めている。
対日貿易では輸入が上回っているが、CPTPPによってカナダにもたらされる最大の利益は「日本が参加していること」と、イアン・バーニー駐日カナダ大使は強調する。日本はGDP6・3兆ドル、人口1億2千万人、世界第3位の経済大国。世界的な工業産業国で、技術革新で世界をリードし、資本力も高い日本との自由協定はカナダに大きな利益をもたらすと語る。
石兼公博在カナダ日本大使も、CPTPPは投資・輸出ともにカナダにとって日本を魅力的な市場にしていると説明。その理由は、日本がアジア各国への、次世代へのゲートウェイであること、最先端の技術革新国でそれを支えている中小企業が380万社あり、カナダの中小企業にとってビジネスチャンスが広がること、そして、日本政府が「世界で最もビジネスに適した国」を目指していることを挙げた。
バーニー大使は「今年はカナダにとってカナダ・日本修好90周年にあたり、両国の友好関係を考えれば今年以上にこの機会を祝うにふさわしい年はないと思う」と語った。
APFCベック氏は、カナダ国民の73パーセントが日本からの投資を支持していると紹介。理由として、投資目的が健全なこと、質の高い雇用を生み出すこと、最先端技術を持っていることを挙げ、CPTPPはカナダがもう一度、日本との貿易関係を強化する絶好の機会だと思うと語った。
ブリティッシュ・コロンビアからCPTPPを推進する
BC州政府ジョージ・チョウ貿易担当大臣によると、BC州にとって日本は3番目の貿易相手国であり、その重要性を認識し、太平洋をはさんだ隣国としてのアドバンテージを生かしているという。
この日出席したカナダ政府ジム・カー国際貿易多様化大臣、フランソワフィリップ・シャンパーニュインフラ・地域社会大臣、ジョナサン・ウィルキンソン漁業海洋・カナダ沿岸警備隊大臣の3閣僚も一様に強調したのが、CPTPPが貿易市場と労働力の多角化と多様化を促進する絶好期であり、BC州、バンクーバーがその重要な役割を果たすという認識だった。
シャンパーニュインフラ大臣は2018年3月、チリでCPTPPに署名した前国際貿易大臣で、この協定には思い入れがある。「CPTPP」命名にも「カナダが貢献した」と、あいさつしたほどだ。この自由貿易協定は、カナダ経済に大きな影響をもたらすが、特にBC州にとってはアジアとのこれまでの関係から大きなアドバンテージがあると語り、「バンクーバーとBC州は急成長しているアジア市場への極めて重要なゲートウェイであり、バンクーバー市民、BC州民は、他の州よりもその重要性をより理解している」とカナダをリードすることを期待した。
カー国際貿易多様化大臣はCPTPPの成功には、女性や先住民族の人々が貿易産業に参加することも重要と労働力の多様化を強調した。現在カナダでは貿易関連会社を起業している女性の割合が14・8パーセントに留まっているとし、今回のCPTPPは女性や中小企業が貿易事業に参加する絶好の機会となると積極的な参加を促した。
カナダ政府、BC州政府ともに、そのための支援機関や政策を用意していると語った。
石兼大使に聞く 日加にとってのCPTPPの重要性
アメリカが撤退した後、日本主導で2018年12月30日に発効にこぎつけたCPTPP。参加国では日本以外の唯一のG7であるカナダは、日本にとっても今以上に重要な貿易相手国となる。
特に強調したのは、CPTPPの特長として投資に関する規則が盛り込まれたこと。これまで「日本とカナダの間には投資協定というのはなかった」と言う。セミナーのスピーチでは、日加間の投資環境について、投資先としての日本の真の魅力がカナダに、カナダの魅力が日本の投資家に十分に伝わっていないのは非常に残念と語っていた。「今回これができたことによって、双方向の投資がもう少し促進するということを期待しています」。
BC州と日本の貿易関係については、いろいろ可能性があるという。一つは天然資源産業。2018年にはLNGカナダが投資決定し、ようやく動き出した。これを最終的な生産・輸出まで進めることが、「カナダにとっても日本、アジアのマーケットにとっても極めて重要」と語った。
その他では、昨年は富士通がAIセンターをバンクーバーに設置と、大企業の名前が躍ったが、石兼大使は「双方の中小企業がもう少し積極的に相手の市場を目指す、あるいは中小企業同士の結びつきを強めていくということが重要ではないか」と言う。日本には世界に冠たる技術を持った中小企業がたくさんある、BC州には環境、デジタル、バイオサイエンスなど、日本に知られていない可能性の高い分野が多くある。その魅力を紹介し、投資、産業協力の促進をサポートするために、「太平洋側にあるバンクーバーは非常に大きなゲートウェイになると思っています」と期待した。
自由貿易を推進し、価値観を共有するカナダとともに、CPTPPを促進していくことは非常に重要と語った。
(取材 三島直美)
セミナーでスピーチする石兼大使。2019年2月11日、BC州バンクーバー