2019年2月14日 第7号

慶応義塾大学学生による声楽アンサンブル『慶応義塾大学コレギウム・ムジクム』が来加し、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)音楽学部のバロック・オーケストラや地元の演奏家たちと合同演奏会を開く(メディアスポンサー:バンクーバー新報)。

これに先がけ、バロック音楽の専門家で同アンサンブルの音楽監督、佐藤望慶應義塾大学教授に話を聞いた。

 

 

日本とカナダの学生が協力してドイツ音楽を演奏

 「バンクーバーでは、かなり以前からバロックをはじめとする古楽祭を開くなど、古楽演奏の伝統があります。UBCのバロック・オーケストラ・メンターシップ・プログラム (BOMP) は、17世紀から18世紀の古楽器を使ったアンサンブルを学ぶプログラムとして発足し、古楽の演奏法を実践しています。一方、慶応大学でも約10年前から古楽器を用いたアンサンブルの授業が立ち上げられ、同時に、古楽の演奏を行う声楽アンサンブルが正規の授業の一環として加わりました」

 佐藤教授は2016年3月から1年間、UBCの訪問教授として研究活動を行った。ヨーロッパでは、日本人がなぜ西洋音楽を演奏するのかと聞かれることがあるが、カナダではそれを不思議に思う雰囲気がまったくないと指摘する。

 「カナダは若い国で、さまざまな文化を内包してできています。カナダ文化の寛容さとしなやかな強さを、ぜひ日本の学生に見せてあげたいと思ったのが、今回の演奏旅行をUBCに呼びかけたきっかけです。それと同時に、現代日本の若者の感性も披露して交流をしたいと思いました」

 

バロック音楽、不朽の名作 ブクステフーデ

 今回演奏するのは、北ドイツのリューベックで活躍したディーテリッヒ・ブクステフーデという作曲家の『メンブラ・イェーズ・ノストリ(我らがイエスの御体)』という宗教音楽。バッハが若いころ、ブクステフーデの音楽を聴くために、徒歩で500km弱の道のりを旅をしたという記録が残っている。

 「ブクステフーデの音楽は自由で、時に天真爛漫、感傷的で時に官能的であったりします。バロックの宗教音楽の堅いイメージを、一新させられるような音楽表現が次々となされています。このほか、ドイツの巨匠ハインリッヒ・シュッツと、アンドレアス・ハンマーシュミットの作品も演奏します。楽器の多彩な使い方と、当時ドイツ人たちがイタリアから学んだ情緒豊かな音楽表現が聴き所です」

 

17世紀のドイツで響いた音を再現

 バロック時代に使われた珍しい楽器の数々。弦楽器は現代の金属弦と異なり、ガット弦という羊の腸から作った弦が張ってあり、そのため現代楽器より柔らかく甘い音色がする。さらに、ハープシコード2台とオルガン2台が加わる。

 「バンクーバーでは世界でも珍しい、サクバットのアンサンブル『カペラ・ボレアリス』が活躍しています。サクバットはトロンボーンの前身の楽器で、これにコルネットというトランペットの前身楽器が加わったもので、教会音楽や祝祭音楽でとても大切な役割を果たしていました。これらの楽器で、17世紀のドイツで響いた音を再現します。現代の重厚なオーケストラや合唱音楽とはまったく異なる、クラシック音楽の趣を再発見されるのではないかと思います」

 

慶応義塾大学アカデミー声楽アンサンブル『コレギウム・ムジクム』
バンクーバー公演
3月8日(金)7:30PM開演(コンサートトーク6:45PMより)
クライスト・チャーチ・カテドラル(690 Burrard Street at Georgia)
アレクサンダー・ヴァイマン(指揮)
慶応義塾大学アカデミー声楽アンサンブル『コレギウム・ムジクム』(音楽監督:佐藤望)
UBCバロック・オーケストラ
アーリー・ミュージック・バンクーバーのメンバー、カペラ・ボレアリス
入場料:ドネーション(推奨20ドル)
主催:アーリー・ミュージック・バンクーバー
問い合わせ:earlymusic.bc.ca

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

慶應義塾大学『コレギウム・ムジクム』のメンバー(左端が佐藤望教授)(写真提供:佐藤望教授)

 

アカデミー声楽アンサンブルが参加した、2018年8月フォーレの『レクイエム』演奏風景。在京の若い音楽家たちのオーケストラがフォーレ時代の理想の音響の再現を目指した。指揮はNHK大河ドラマの指揮でも有名な下野竜也氏。(撮影:EnsenbleVagabonds©Lasp Inc.)

 

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