2019年2月14日 第7号

日本の各地にあるお祭りの象徴、神輿が、いまやバンクーバーにすっかり根を下ろしている。人呼んで「バンクーバー神輿」。その「晩香坡神輿の会・楽一」の『頭』を永年にわたり務めた山本実さんの退任式典が、2月10日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館で行われた。同時に、次世代の頭に就任した森谷宏亘さんの紹介も行われた。

 

『楽一』の頭を退任した山本実さん

 

日本のお祭り文化の象徴、『神輿』をバンクーバーに根付かせた『楽ー』
その初代「頭」山本実さんが、退任することとなった

 バンクーバーに本格的な日本の神輿が登場したのは、1986年のEXPO交通博覧会のジャパン展であった。このときの神輿を祭り好きの日系人社会に寄贈したのが、当時、日本交通文化協会理事長の滝久雄さん(現・株式会社ぐるなび会長)。その神輿は、祭り好きの男たち7人の心意気を燃え上がらせるのには十分で、2002年「晩香坡神輿の会“楽一”」を結成させ、“パウエル祭”をはじめさまざまなイベントなどで、存続することとなった。 

 その『頭』についたのが、山本実さんであった。バンクーバー在住の宮大工の協力によって、カナダの材木を使用。これに塗装し、さまざまな神輿独特の装飾物を日本の業者に特注製作、飾り付けなどをし、4年の歳月をかけて現在の神輿が完成。その手間、費用は、すべてファンドレイジングとボランティアでまかなわれた。印半纏などの衣装も揃えた。さらに、山車や獅子頭、笛や太鼓や鐘の鳴り物も揃え、スティーブストンの「サーモンフェステイバル」、「パウエル祭」、「日系祭り」などへ参加している。なお、滝さんから贈られ、会結成のきっかけとなった神輿は、傷んだところを修理し子供や女性が担げる神輿として、現在も活躍している。

 この神輿の担ぎ手の募集、掌握が、また大変な作業だ。日本の各地方から来ていて、それぞれに担ぎ方も合いの手も独特。息を合わせ、リズムを合わせなければならない。最近では、日本人に限らず、異文化の人もさまざまに参加する。これを一体にまとめ上げていく手腕を17年間発揮してきたのが、「頭」の山本実さんだ。この間に、若手の継承者も育ってきた。頃はよし、と潔く退任を決意したのであった。

 1986年のバンクーバーEXPO時に神輿を日系社会に寄贈、バンクーバーに日本伝統のお祭り文化の種をまいた株式会社ぐるなび会長の滝久雄さん。しかし、当時から現在に至るまでバンクーバーに訪れる機会はなく、今回の『頭』退任式出席のため初めての来加であった。来賓のあいさつに立った滝さんは、「みのる(山本実さん)は、大学の親友の弟で、それが、永きにわたり晩香坡神輿の会の頭として、立派に果たしてきたこと、日本の祭り文化の紹介を果たしてきた働きに敬意を表します」。そのご褒美に…と、ばかりに多額の寄付をした。

 

異文化民族が集うカナダでも、キラリと光る存在でありたい日本
日本伝統の祭り文化の象徴、神輿を永遠に…

 来賓の挨拶で、羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事は、「ここカナダは、さまざまな異なる文化背景を持つ民族が調和して住むモザイク国家です。そんななか、ともすると埋没してしまいがちですが、日本の伝統的な祭り文化の象徴ともいえるお神輿担ぎは、キラリと光る存在です。これを17年間という永きにわたり『楽一の頭』として務めてこられた山本実さんに改めて敬意を表します。そして、次世代へとつながれていく『楽一』を応援していきたいと思います」と述べ、楽一メンバーの心意気をさらに奮い立たせた。

 式典の最後には、次代の『頭』が紹介された。その人の名は、森谷宏亘さん。『楽一』を永遠につないでいく決意を述べて閉会した。

(取材 笹川守)

 

退任する山本さんをねぎらう株式会社ぐるなび会長の滝久雄さん

 

来賓の挨拶をする羽鳥隆在バンクーバー日本国総領事

 

次代の『楽一』の頭に就任した森谷宏亘さん

 

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