車人形のしかけ
人形は背丈1メートル10~20センチほど。人形遣いが左手で人形の左手と頭を、右手で人形の右手を動かす。両手に関節がつき、右手はものを取ることも出来る。
人形のかかとにあるフックを自分の足の指先に留め、箱車に腰掛け舞台を回転しながら人形芝居を行う。人形が舞台に足をつけて演技できるのは、世界でもこの車人形だけだとされており、人形の足が直接舞台を踏むことから力強い演技が見所だ。
現在120種類の人形があるが、そのうち90は江戸末期の作品。伝統的なものが見直されている今日では、特に徳島で盛んに人形製作が行われているとのこと。
農山村の娯楽として普及
車人形が考案されたのは江戸時代末期。5代目西川古柳家元によると、世界で人形芝居が一番多く残っているのは日本だという。
「昔、天地の災害、疫病などは天の神のしわざと考えられ、その怒りを静めるために人の形をした人形(特に女性)を神に捧げました。神と行き来できるのは人形と考えられ、神のために踊る人形芝居は神事として農村を中心に広がっていったのです」
日本の伝統的なものというのは外にアピールするのではなく、心の中に秘めた微妙なものをどう表現していくかだと話す。女性が自分の好意を示すことが出来なかった時代、人びとは人形を通して恋路を語った。それゆえ女性の色気というものが人形のしぐさ、うなじ、指の動きによく表れている。
全国で車人形を受け継いでいるのは埼玉、奥多摩そして八王子の合わせて三座のみ。5代目家元は落語やバレエなどとのコラボレーションや海外公演なども積極的に行い、子どもたちへの指導や後進の育成にも力を入れている。「古典的なものをどう子どもたちに伝えていくかが課題です」
好評だった講演と上演
UBCアジアセンターでは同行の平間充子博士による文楽や義太夫についての講義に続き、英字幕付きで『仮名手本忠心蔵』より『殿中刀傷(にんじょう)の段』と『日高川入合花王(さくら)』より『渡し場の段』を上演。義太夫節太夫の竹本越孝(たけもと・こしこう)さんによる抑揚をつけた語り、義太夫三味線の鶴澤三寿々(つるざわ・さんすず)さんの演奏が迫力を増し、説明を聞いたあとに観る舞台はさらに印象深いものであった。
『パフォーミング・アーツ・ジャパン』と題したこの日本の伝統芸能紹介イベントは、総領事館と国際交流基金の主催によるもので、バンクーバーでの公演には約150人、講義とデモンストレーションが行われたビクトリア大学には220人、UBCには約50人の参加者があった。在バンクーバー日本国総領事館領事磯野哲也氏によると、ほとんど知られていない車人形を知る機会を持った現地邦人やカナダ人から「興味深い」「ドラマチックな演技」などの感想が聞かれたという。
キューバ、コスタリカを回った一行はバンクーバー、ビクトリアのあとケベックとトロントへ行き、全3週間の行程で伝統芸能を紹介している。
(取材 ルイーズ阿久沢)