2018年11月8日 第45号

BC州リッチモンド市スティーブストンは、和歌山県の漁村、美浜町三尾地区の一人の青年が1888年(明治22年)に初めて足を踏み入れた記念すべき港街だ。フロンティア精神あふれる青年の名は、工野儀兵衛。彼は、「フレーザー河には鮭がわいているぞ!」と三尾村の若者に知らせた。その後続々と移民者が続き、『スティーブストンの三尾村』が形成されていった。一方、鮭漁で富を得て、三尾村へ帰国した者は、西洋の生活道具や衣類を持ち帰り、洋風の家を建てた。いつしか、三尾村は『アメリカ村』と呼ばれるようになった。それから130年も過ぎようとしている今、三尾地区は人口も激減し、高齢化が進む過疎の村、『限界集落』になろうとしている。そんな事態に危機感を持った美浜町役場、住民の有志が立ち上がり、『日ノ岬・アメリカ村』というNPO法人を立ち上げ、活性化を目指し始めた。そのメンバー6人、田中敦之さん(美浜町役場職員)、柳本文弥さん(松原小学校元教頭)、左留間豊幸さん(NPO法人副理事長)、武田千鶴さん(語り部jr講師)、東悦子さん(移民史の専門家、和歌山大学教授)、鈴川基次さん(交流会会長)が来加し、10月30日、スティーブストンの和歌山県人会との交流会を開催した。場所は、望郷の念を抱いたまま眠る先人たちの御霊を慰め、今を生きる人々のコミュニティの場として活用されている『スティーブストン仏教会』。和歌山県人会からは26名の高齢者メンバーばかりが集まり、三尾地区の現況を案じ、故郷を懐かしんだ。

 

 

あの希望に満ちた豊かな三尾、『アメリカ村』を蘇らせよう!

 日本の高齢化の波は、和歌山県にも押し寄せ、なかでも三尾地区はさらに厳しい状況となっている。かつての『洒落たアメリカ村』の洋館も朽ち果てようとしている。「これはなんとしても食い止めなければならない。いや、かつての時代を超えるような活性化を目指そう」と立ち上がったNPO法人『日ノ岬・アメリカ村』の面々。

 まず、目をつけたのが、その象徴ともいえるスティーブストン帰りの成功者が建てた洋風建築の住宅。その一部が、当時の生活用品などの資料を展示する「カナダ ミュージアム」やゲストハウス「遊心庵」、アメリカ村食堂「すてぶすとん」などとして蘇っている。また、三尾地区を中心に陽の光と潮の香りに満ちた「日の岬パーク」、「煙樹ヶ浜」や史跡などの多彩な観光資源、そして、しらすや伊勢海老、ひじきなどの海の幸にも恵まれている。これらを国内外にもっとPRし、観光客を増やそう、雇用機会の創出も図り移住の促進もし、人口減少に歯止めをかける施策が始まった。

 

ジュニアの語り部、育成中。英語、日本語のバイリンガルの国際人に育てたい

 地域の小・中・高校生のなかから参加する17名が、毎週日曜日に旧三尾小学校に集まり「Let’s KATARIBE」と称し、和歌山の歴史や三尾地区の移民史を語り継ぐジュニアの語り部の育成を行っている。松原小学校の柳本元教頭をはじめ、カナダ、アメリカ生活の長い武田千鶴さん、ハワイから移住しレストラン「すてぶすとん」で働くデュランさん、スティーブストン出身のケリーさんが、ネイティブ英語を教え、国内外からの来訪者の案内をしようというものだ。パイオニアのDNAを持つ少人数のジュニアたちに、濃密にネイティブ英語を注入するところは他にない。語り部という明確な目標を持ってネイティブ英語を学べば、「話せる英語」「使える英語」を必ず習得できるだろう。この点だけをみても、大きな魅力だ。最近、日本も英語教育の転換に本腰を入れ始めているなかで、子どもを持つ若いファミリー世代の移住希望者にとっては、夢ある目玉になるのではないだろうか。

 来年の夏休みには、ジュニアの語り部が、スティーブストンを訪問する予定で、和歌山県人会も「大歓迎の準備をはじめたい」と会長の林栄造さんが語っていた。

 この日、集まった和歌山県人会メンバーは99歳の村尾敏夫さんをはじめ、ほとんどが高齢者。三尾地区の現在の姿をスライド映像で見ながら、また、NPO法人メンバーそれぞれの地縁、血縁が紹介されると会場からは、「あ、知ってる」「同級生や!」と、まさに新旧相まっての交流会となっていた。

(取材 笹川守)

 

来加したNPO法人「日ノ岬・アメリカ村」のメンバー。(左から)田中敦之さん、柳本文弥さん、左留間豊幸さん、武田千鶴さん、東悦子さん、鈴川基次さん

 

情報紙『三尾だより』を見ながら懐かしむ参加者たち

 

歓迎の挨拶をする和歌山県人会会長の林栄造さん

 

和歌山県人会、長老の村尾敏夫さん(99歳)

 

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