2018年6月21日 第25号
6月9日、画家のYukiさんとギタリストの中島有二郎さんが、バンクーバー市内のYukiさんのアトリエで、ジャズと絵画のライブ・ペインティングを公開した。 サロン風スペースには、夕方と夜の部にそれぞれ30人以上が参加。中島さんのジャズ・ギターに合わせて、Yukiさんが作品を創り上げていく過程を見ながらアートなひとときを過ごした。
演奏をした中島有二郎さん(左)と画家のYukiさん(右)
ジャズギターに酔いしれて
芸術家や家具職人が創作アトリエを構えるアーティスト・スタジオ。倉庫のような建物に入り、ポスターが貼られた壁の狭い階段を上っていくと、次第にテンションもあがる。
無造作にソファが置かれたサロン。ビリー・ホリデーの『サマータイム』で始まった中島さんのギターに合わせて、Yukiさんがキャンバスに色を重ねていく。
アコースティック・ギターのほかに、美しい音色が響く小型のソプラノギターとウクレレ。中島さん独自のアレンジによるジャズ・ボーカルのスタンダード曲『When I fall in love』やルイ・アームストロングの『What a wonderful world』が心地良い。
日本のロックバンド、ブルーハーツのヒット曲『リンダリンダ』に耳を傾ける人や、ウクレレによる『Somewhere over the rainbow』が始まるとメロディーを口ずさんだり、最後にはダンスをする人も。 作品を創り上げる過程を見ながら、バラエティ豊かな音色に酔いしれた。
過去があって、今がある
後半になると、完成間際と思われたキャンバス上に異変が起こった。すべてが白で消されてゆく。「もったいない」の思いがよぎる。だが、ギターの激しいストロークとともに表面がこすられ、そこに新たな世界が現れた。
「私たちにはそれぞれ過去があります。過去がなければ今はありません」とYukiさん。過去を白で塗りつぶしたことによって『現在』が現れたのだという。
美大進学への夢をあきらめ、カナダに来て30年以上。長い間うつ病に悩まされ、クワントレン・ポリテクニカル大学で臨床心理学を専攻した際、単位取得のために再び筆を握った。「自分に自信がなくて、自分には一体何ができるのだろうと思い、それを絵で表現し始めたのです」
影響を受けたアーティストは3人の子供たち。「子供たちが小さかった頃、うまく描こうというのではなく、自分がいいと思ったものを迷わず描いている姿を見てすごいなあと思いました」
中島さんのギターに癒されながら描いたというYukiさんは「私の抽象画は私の内側、私という存在で、色も形もないエネルギーをキャンバスに表現していきます。今日は、いつも作業しているアトリエにみなさんに来ていただいて、一緒にいるみなさんのエネルギーも、自ずと私の筆を通して表現されたと思います」と完成した作品を前に、感無量の面持ちで語った。
Yuki:東京出身。カナダ芸術家連盟在籍。抽象画、水彩人物画をメインに展開。バンクーバーで一番古く大きなパーカースタジオのアトリエで愛犬ミカと一緒に創作している。過去に東京で個展、グループ展を開催。バンクーバーではカナダ芸術家連盟(Federation of CANADIAN Artists)のグループ展に数回参加し『舞妓かつな』という作品で佳作受賞。その他、映画のセットとして抽象画を提供。世界動物画コンペでは愛犬ミカの絵で優秀賞受賞。
11月15日から4日間、東京・新橋でグループ展に参加。12月6日からバンクーバー市内のVisual Spaceで個展を開催する。
(取材 ルイーズ阿久沢)
ジャズの音楽に合わせて色を重ねていく様子
ライブ・ペインティングを見守る人たち(写真提供:Manto Artworks)
完成した抽象画