2018年3月29日 第13号
村上隆さん作品を展示した“The Octopus Eats Its Own Leg”が華々しく開催されているバンクーバー・アート・ギャラリーで、寄り添うように同時期に開催されているのが「BOMBHEAD」。原爆を中心に、核兵器、原子力エネルギーを含む原子力をテーマにした作品を紹介している。
Carel Moiseiwitsch, Untitled (Four Black Jets), 1992, lithograph on paper Collection of the Vancouver Art Gallery, Gift of Mr. Milton Woensdregt (写真提供:バンクーバー・アート・ギャラリー)
原子力時代の今に警鐘を鳴らす作品群
1945年8月、広島、長崎に原子爆弾が投下された。多くの人が犠牲となり、被爆者たちは73年が経った今でも、肉体的、精神的な被害から抜け出せないでいる。
そして直接被害を受けなかった人々にもその後大きな影響を与えた。それを顕著に表現しているのがアーティストたち。
戦後の世界は核兵器競争へと走り、「抑止力」を理由に核兵器開発を続けた。一方で、「核の平和利用」という名目で原子力発電が推進された。温室効果ガスを排出しない環境に配慮したエネルギー源としても注目されてきた。しかし、ロシア(当時ソビエト連邦)で、アメリカで、そして2011年3月11日には福島で原子力発電所の事故が起きた。その衝撃は記憶に新しい。平和的、環境的利用の「原子力」の恐ろしさを目の当たりにした事故だった。
こうした危機感を敏感に感じ取りアートで表現された作品を集めているのが、今回開催されている「BOMBHEAD」。絵画、描画、彫刻、写真、映像と、さまざまな表現方法で「原子力」の非情さを表現する。
今だからこそ、原子力の恐怖を改めて提示したい
キュレーターを務めたジョン・オブライアンさんは、「原子力」をアートで扱うきっかけについて「15年前に『核がもたらすもの』について興味を持った」と語った。「原爆がもたらすもの、原爆の結果がもたらすもの」に興味を抱いたという。
これまでにも同様の展示会を世界で開催してきた。トロント、イギリス・ロンドン、デンマーク・コペンハーゲン、そしてノースバンクーバー。人々の反応はさまざまという。中には落ち込む人もいる。
しかし展示会を通じて「人々にこの問題に参加してほしい」と語る。こうした展示会を開催することで、これを見た人々が何かを感じ、この問題について語り、そして「核問題について理解を深めてくれるようになると思う」と期待している。
アメリカとロシア(当時のソビエト連邦)の冷戦時代、世界は核の恐怖におびえていた。しかし冷戦後世界はその恐怖から解放されたように見えるが実は何も解決していないとオブライアンさん。
世界は今、北朝鮮問題を抱え、再び核兵器について考える機会になればとの思いを語った。
日本からの作品
日本からは写真家石内都さんの作品が展示されている。石内さんは2011〜12年にかけて約4カ月バンクーバーで開催された「ひろしま」プロジェクトに参加したひとり。期間中にはブリティッシュ・コロンビア大学人類学博物館(MOA)で石内さんの写真展が開催された。
被ばく物を写真に収めた作品展で、被ばくした衣装や所持品などの写真が紹介された。人だけでなく、人々が大事にしていた物も同時に被ばくし、それらはそれぞれに多くを語っていると当時のインタビューで語っていた。
オブライアンさんは、原子爆弾と聞いて人々が最初に思い浮かべるのは、被爆者の証言や書籍で知った知識ではなく、まずはきのこ雲の写真という。アートには人々に訴える力があると信じる。村上隆さんの作品とも深い所でつながっているという。「アートの範囲は限定的かもしれないがそれが訴える力は計り知れない。人々がアートに触れ文化的思考を変えるなら影響は大きいと思う」と語った。
「BOMBHEAD」
6月17日まで開催。詳細はサイトを参照。また展示会と並行してワークショップ「アトミックスタディ」も開催中。あと2回、4月28日(土)、5月15日(火)に開催される。
BOMBHEADサイト http://www.vanartgallery.bc.ca/the_exhibitions/exhibit_bombhead.html
アトミックスタディサイト http://www.vanartgallery.bc.ca/events_and_programs/speaker_series.html
過去記事:石内都写真展「ひろしま」開催 石内都さんインタビュー
(取材 三島直美)
Bruce Conner, Bombhead, 1989/2002 pigment on RC photo paper, acrylic PrivateCollection © Estate of Bruce Conner/SODRAC (2018) (写真提供:バンクーバー・アート・ギャラリー)