2018年3月22日 第12号
バンクーバー・メトロポリタン・オーケストラ(VMO)が3月11日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市のマイケル・J・フォックス・シアターで『岡部守弘記念コンサート』を開催した(メディアスポンサー:バンクーバー新報)。優れた若手音楽家に、プロと同じような設定でオーケストラと演奏するチャンスを与える使命を持って生まれたVMOは結成15年。今回はピアノのライアン・ワングくん(10)、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)で声楽を学ぶイェニー・リーさんがオーケストラと共演した。
UBCオペラ学科で学ぶイェニー・リーさんがVMOと共演
若手がソロ
前半ではメゾ・ソプラノのイェニー・リーさんがモーツアルトのオペラ『皇帝ティートの慈悲』のアリア『私は行く、でも愛しいあなたよ』を安定した声で独唱した。
続いてスーツ姿の小さな紳士、ライアン・ワングくん(10)が『ベートーベン・ピアノ協奏曲第二番』でオーケストラと共演。長い作品を集中して堂々と演奏したライアンくんは「この曲はきれいでスムースな音色があり、各楽章の違いが弾いていて楽しいです」と礼儀正しく答えてくれた。
4歳でピアノを始め、5歳のときにカーネギーホールで演奏し、オーケストラとの共演も豊富なライアンくんは現在小学校5年生。ピアノの練習は毎日1〜2時間だが、コンサートの前には3時間くらい。友達と一緒にバスケットボールやフィールド・ホッケーなどスポーツも大好きで「大きくなったら演奏家ほか、俳優もしてみたいです」と話す。
第二幕ではオーケストラがベートーベンの交響曲第三番『英雄』、通称『エロイカ』を演奏し、幕を閉じた。
VMO元理事でアドバイザーのマリー・カヒルさんとともにジェシカ・リーさん(13)、ガリーナ・ゴングさん(10)が舞台に上がり曲紹介をするなど「子どもたちをぜひ演奏会に連れて行って生の演奏を聴かせてください」と語るVMO音楽監督・首席指揮者のケン・シェさんの思いが込められていた。
音楽の素晴らしい力
折しも東日本大震災から7年目を迎えたこの日、会場には東京都立川市在住のしおみえりこさん(アートプロデューサー)、橋爪恵一さん(クラリネット奏者)の姿もあった。しおみさんらは東日本大震災津波被害の着物を使ったパッチワークのワークショップ、アート展とチャリティ・コンサート出演のためにバンクーバーを訪れていた。
「ピアノのソリストは年少ながら安定した技術を持っておいでですので、これから順調に活躍なさるよう期待しております。ケンさんはベテランの指揮ぶりで、的確な指示をしていらっしゃいます。オーケストラ固有の音色が表現できるよう、成長していってほしいと思います」と橋爪さん。
しおみさんは「期せずして、3月11日という忘れてはいけない日にバンクーバーの若きアーティストたちの演奏を聴くことができて、音楽の力を再認識しました。力強い素晴らしい音楽をありがとうございました」と感想を寄せてくれた。
桐朋学園大学指揮科の教授だった岡部守弘氏から受け継いだタクトをいつも楽譜台に乗せているケン・シェさんは、このコンサートを恩師岡部氏に捧げた。
(取材 ルイーズ阿久沢 / 写真提供:VMO, Mayowill Photography)
ピアノ天才児ライアン・ワングくん(10)
VMO音楽監督・首席指揮者ケン・シェさん(中央)