2018年3月8日 第10号
2月28日、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バーナビー市の日系文化センター・博物館で、桜楓会が主催する教養講座が催された。今回の講師は「ミスター・ホットスプリング」ことマイク佐藤さんで、カナダでの温泉開発に携わってきた経験や裏話などを披露した。会場には約40人が訪れ、佐藤さんの楽しい話に聞き入っていた。(メディアスポンサー;バンクーバー新報)
専門的な話からユーモラスな裏話まで多彩な内容の講演を行った
カナダに日本式温泉を
マイク佐藤さんは大学卒業後、日本を出て世界各地を放浪。25歳の時、トロントで毛皮を扱うビジネスを始めた。そしてカナダに日本式温泉を造りたいという、かねてからの夢をかなえるべくBC州へ移った。現在に至るまで、カナダの法律の壁などさまざまな困難を乗り越え温泉開発を進めてきた。
カナダでは約127カ所の温泉が確認されている。温泉があるのはBC州、アルバータ州、ユーコン準州、ノースウェスト準州で、その85パーセントはBC州に集まっている。ほとんどの温泉は州有地内にあり、それがBC州における温泉開発を難しくしている要因のひとつである。佐藤さんが造りたい日本式の温泉とは、自然石の岩風呂で源泉かけ流しのスタイル。カナダで温泉といわれるものは、ほとんどがコンクリートで造られ、塩素消毒されたお湯を循環させているプール形式だ。だが、最近は北米の人たちの温泉に対する意識も変化してきており、周りの自然な環境に溶け込んだ岩風呂への注目度が高まってきている。とはいえ、カナダでは商業的な温泉にはプール法が適用され、日本人にしてみると温水プールとしか思えないものになってしまうのが現状だ。ただし、州立公園の中などにある自然に形成された天然の水たまりは、このプール法の適用外となっていた。佐藤さんは、このプール法の適用外条項を上手に拡大解釈してプール法に風穴を開けられたら、日本式の源泉かけ流し温泉が可能になってくるのではないかと考えた。実際にカナダで初めてプール法適用外とされたのが、佐藤さんが手がけたミーガークリーク温泉。この温泉が実現するには長い年月がかかった。
日本人にとって温泉とは気軽に行ける観光地のひとつだが、カナダ人の温泉に対する意識はかなり違う。50キロもの砂利道を車で走ったり、1時間以上も歩かないとたどり着けない秘境のようなところにある方が温泉らしいと感じるようだ。そんなカナダにおいては、日本のような温泉旅館を造ることは果たして可能だろうか。
温泉の認知度向上を目指す
それまでカナダでは温泉というと温水プールのような商業的なものか、水質や安全の管理が徹底されていない天然の原始温泉という両極端なものしかなかった。そこでBC州は1980年代に、アウトドア志向の入浴客の増加に対応した、大自然の中の原始温泉の改良と管理システムの斬新なアイディアを求めるようになる。そこに、ある程度管理整備された天然露天風呂のコンセプトを「Japanese Style Hot Springs Pool (ONSEN)」として、BC州林産省に提案したのが、佐藤さんだ。このことが佐藤さんの現在の温泉開発のビジネスにつながっていく。この仕事に関わりBC州の小さな市町村を多数訪れることができたこと、若々しい気持ちを保てること、そして温泉に入った人が喜んでくれるということが、この仕事の良い点だと話す。
水上飛行機や馬に乗って温泉の調査に行くこともあるという。さすが広大なカナダ、スケールが違う。山奥に入っていくことも多いので、熊に遭遇する危険性も高い。「私だけが知っている秘密の温泉がある」などといった話は山のように聞くが、そういうものはほとんど信ぴょう性がない、など経験を積んだ佐藤さんならではの興味深い裏話がたくさんあった。
カナダの商業温泉施設に日本式の露天風呂を造ることが目標だという佐藤さん。まだまだ道のりは険しいが、着実に事例を作り上げ、後進への道しるべとなるべく邁進中だ。
(取材 大島多紀子)
マイク佐藤さん