2018年1月1日 第1号

和楽器イベントコーディネーター 沖朋奈(おきともな)さん  

時に胸の内の悲しみをつまみあげ、時に魂の力を沸き立たせる津軽三味線の音色。人生の悲哀に寄り添いながらも力強いその音は、一人の女性を突き動かした。 エアカナダの客室乗務員の仕事の傍ら、日本から和楽器奏者を率いてのカナダ自主公演ツアーを過去に4回企画実行した沖朋奈さん。次は2018年の4月の公演実施が決定。音楽業界に無縁だった沖さんの津軽三味線との出会い、公演企画者となっての果敢なチャレンジの姿に迫ってみたい。

 

エアカナダの客室乗務員が本業の沖朋奈さん

 

自らの手でカナダに和楽器の音色を

 友人の車の中でかかっていた津軽三味線のCD。その迫力に衝撃を受けた。そして2009年、津軽三味線のコンサートで生音を聴いた。「全身に鳥肌が立ち、心臓がドキドキし、感動で涙が出ました」。住まいはバンクーバーだったが、日本へのフライトの度、和楽器のコンサートへ。さらに三味線教室にも通い始めた。「練習するうち、人に聴いてもらいたい気持ちになってきました。でも自分の演奏を聴かせるなんて恥ずかしいことで。それよりも素晴らしい和楽器奏者たちの演奏を、世界の人たちに聴いてもらいたいと思うようになりました」。現場に触れるためにと、生活拠点をカナダから日本に移したのは2013年のことだ。  

 

2013年和楽器カナダツアー始動

 「世界にこの音を届けたい!」たった一人で初のカナダ自主公演企画にチャレンジ。企画書作成からアーティストへのアプローチ、現地との交渉…。すべてがゼロからのスタートだった。関係者から「勝手を知らない」と怒られるなど、苦い経験は数えきれない。それでも無事2013年にトロントの日系文化会館ほかで、和楽器公演を実現した。出演者は津軽三味線奏者の山口晃司さんとお弟子さんたち。カナダの観客が笑顔と手拍子で迎えてくれた姿に、沖さんも出演者も大きな安堵と言葉にできない喜びを感じた。「ぜひ再び」の開催地からの声も後押しして、2015年に2度目のトロント公演(山口晃司さんと和太鼓奏者・笛木良彦さん出演)を実施。この2度ともスポンサーはなく、沖さんの持ち出しで費用を賄った。

 3度目の挑戦のため、先立つものをとクラウドファンディングに挑戦。「目標金額が集まっても集まらなくても、自費でもこのツアーは催行する覚悟でいます」との呼びかけに反響があり、渡航費、宿泊費が集まった。そして実現したのが2016年のトロント、バンクーバー、ソルトスプリング島公演だ。 和太鼓奏者の金刺敬大さん、津軽三味線奏者のはなわちえさん、奄美の島唄の里アンナさんの華やかで力強いステージは、観客を大いに魅了した。さらに2017年は日本から津軽三味線奏者の山口ひろしさん、パーカッショニストの石川智さんに、バンクーバーのブラジリアン・ギタリストの中島有二郎さんが加わり、異文化融合のコラボレーションを実現。どのステージもスタンディングオベーションを受ける盛り上がりぶりを見せた。  

 

同志求む!

 自分で道を切り開いていこうとする人への助言を求めると、「私はまだまだ経験不足でアドバイスできる立場ではないです」と、しきりに恐縮する。「今までに何度もやめようと思いましたが、あきらめないでよかったと思っています。良いものであれば、人は応援してくれます。でも、やめる勇気が必要なときもあると思います。精神的にも辛く限界まできていましたが、周りに助けられて感謝しかありません」

 今後の抱負である「日本の音楽のカナダへの紹介だけでなく、この活動でご縁のつながったカナダの方たちの、日本での活動のお手伝いもできたら」の思いも行動に変わりつつある。こうした沖さんの情熱と行動力のもと、音楽関係者とのつながりは強まっているが、沖さんと同じ思いで一緒に動ける人がいれば心強い。「関心のある方がいらしたら、ぜひ気軽にご連絡いただければ」。日本とカナダ、音楽の架け橋役の言葉にピンときたら: This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.へ。

(取材 平野香利)

 

スティーブストン仏教会が熱くなった本堂での和楽器コラボステージ(2016年)

 

埼玉や東京都内の中学校で、生徒や保護者を対象に津軽三味線鑑賞会も開催している

 

 

読者の皆様へ

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