2017年11月16日 第46号
第58回海外日系人大会が10月23日から25日まで、東京の憲政記念会館とJICA市ヶ谷ビルで行われ、カナダからの12名を含む20カ国248名の日系人が参加し、「TOKYO 2020に向け日系パワーを結集!」をテーマに議論を交わし交流を深めた。
23日の歓迎交流会にご臨席された秋篠宮ご夫妻
同大会は国際交流と各国での対日理解の促進を目的に行われているもので、講演とシンポジウムからなり、世界の日系人ネットワークの中心的行事となっている。
初日はソウル五輪水泳金メダリストでスポーツ庁長官の鈴木大地さんが「スポーツが変える、未来を作る」と題して2020年に向けての日本のスポーツ行政について基調講演を行なった。
シンポジウムでは中前隆博外務省中南米局長が、「海外日系人への期待『中南米日系人との連携に関する有識者懇談会』の報告を踏まえて」をテーマに講演し、「スポーツと文化」、「ビジネス」、「2020年のユース」をテーマに3つの分科会に別れ、討論した。
議論の内容は7項目からなる大会宣言としてまとめられ、全体会議で承認された。
23日には秋篠宮ご夫妻ご臨席のもと歓迎交流会が行われ、両殿下とも各国からの参加者と会話を交わされた。24日夜は河野太郎外務大臣主催による歓迎レセプションが開かれ、席上大臣は父の河野洋平氏(外務大臣他要職を歴任)が外遊の際に各国の日系人に大変な歓迎を受けたことを披露し、親子二代にわたりお世話になったと感謝の気持ちを述べた。
25日昼は参議院議長主催昼食会が開かれ、伊達忠一参議院議長が挨拶で「日系人の方々の苦労とご尽力が世界の中の日本の評価を高めてくれている」と参加者を労い、「ようこそお帰りなさい」と歓迎の言葉を述べた。郡司彰参議院副議長はじめ、山本順三、芝博一、古賀友一郎、井上哲士、塚田一郎、石川博崇、舟山康江参議院議員が次々に挨拶に立った。
カナダから参加した五明明子さんは、日系文化センター・博物館理事長の立場から、自分たちの活動との接点を見極めに今大会にはじめて参加したという。「世界中の日系人の広がりを感じられたのは収穫で、皇室の方々や大臣らに直接お会いできる機会は貴重」としながらも「中南米の日系人が中心という印象は否めず、日本政府が期待することと、私たち日系人が考えることにもギャップがあるように感じられた」と語った。ブラジルから初参加した会社経営の財津アンジーノさんは、「同じ日系人としてビジネス分野で他国の日系人経営者に共感を感じる部分があった」と言い、「各国の日系人が集うこと自体に意味があると思う」と感想を語った。
■ 10月23日 基調講演レポート
23日、ソウル五輪水泳金メダリストの鈴木大地スポーツ庁長官が特別講演を行い、2020年東京オリンピックに向け日本が取り組んでいるスポーツ行政について説明した。
長官は1964年の東京五輪、ロサンゼルス五輪招致で活躍した日系人、フレッド・イサム・ワダさんついて語り、自身が競技水泳の選手時代に、お宅を訪問したエピソードを披露、自身の海外体験では日系人にお世話になった印象が鮮明に残っていると述べた。
長官として力を入れたいことの一つは、スポーツ参加者の増加。「スポーツといえば競技スポーツのみを想定することが多いが、散歩やレクリエーションなど体を動かす機会を増やしたいのです」。具体的な数値目標を上げ、施策について説明した。これは増大する医療費の抑制にも必要という。
また、「子供の16パーセントがスポーツ嫌い」という調査結果を心配だと指摘した。「日本では体育の授業があり、これは軍事教練の流れを汲んでいるところもあって、スポーツ嫌いの遠因となっているようだ。体育だけではなく、もっとスポーツの楽しみ方をアピールしていき、8パーセント以下にしたい」と抱負を語った。
日系社会との関係では、日本のスポーツの国際化について語った。各スポーツ団体の国際機関で働く日本人の数を25人から35人に増やすという目標を掲げている。またスポーツ・フォー・トゥモローとのスローガンの下で、日本からスポーツの輪を広げる活動を支援しているという。マラウイで日本式の運動会を行なった例を挙げていたが、これなどは移住地の日系団体が昔から行なってきた活動と重なると言えるだろう。
最後に日本のスポーツの良さはドーピングや八百長がないクリーンな点であることを挙げた。2020年東京オリンピックがスポーツを通じて社会貢献する新しい日本のスポーツ像を提示する場になればと締めくくった。
特別講演では他に参加国から3名が発表した。
ブラジルのヤザキ・シャーリー・ナツさんは日本体育大学留学中にNHKのクルーとしてリオ五輪の報道現場に出向き、自身が学んできたスポーツの知識と、日系人としての強みを生かして活動した体験を語った。
ペルーのフェリペ・アゲナさんはラ・ウニオンという日系の総合運動場の運営について語った。同団体は日系一世たちが日系社会の心の拠り所として9万7千平方メートルの土地を購入し、手作りで作り上げた施設で、1953年の発足以来、スポーツと教育の分野で発展を続けていることを述べた。フェリペさんは日本との繋がりも大事な要素と考え、日本の大学から指導に来てもらうなどを例に挙げ、技術的、物質的な支援が自分たちの団体の価値を高めていると語った。「ニッケイ+日本」の組み合わせによってリマ市民にも尊敬の念を抱いてもらえていると述べ、日本のブランド力を高める一助となっていると指摘した。
武蔵大学教授で日系ブラジル人のアンジェロ・イシさんは基調講演の全体のまとめを行った。また自身を「在日日系一世」と捉えるアイデンティティの持ち方を披露、日系人の多文化の理解者としての優位性を強調するべきと主張した。「その意味からも海外から日本に来る人の要望が一番良く分かっているのが日系人だ」と述べ、東京オリンピックに向けて手伝えることがあるとの認識を示した。
■ シンポジウムとディスカッション
大会二日目はJICA市ヶ谷ビルでシンポジウムが行われた。午前中は中前隆博外務省中南米局長が基調講演「海外日系人への期待ー『中南米日系人との連携に関する有識者懇談会』の報告を踏まえて」を行なった。 続いて堀坂浩太郎理事がモデレーターとなりパネルディスカッションが行われた。
ブラジルのアンジェラ・ヒラタさんは「日本文化の発信と普及のための連携」と題して、自身が館長を務めるサンパウロの「ジャパンハウス」の運営について述べた。世界で3カ所(他にロンドン、ロサンゼルス)が予定される日本文化を紹介する施設の嚆こうし矢となるものだが、テーマパークではなく両国のためになる場を目指し、永続的な運営を目指したいと抱負を述べた。
アルゼンチンの小木曽モニカさんは「地域の魅力発信、訪日観光客誘致のための連携」と題して、自身のコーディネートの経験から、地方の観光資源に注目する知見を述べた。
ブラジルの斎藤ワルテル俊男さんは「魅力的かつ収益力のある農業とするための連携」について語った。自身が日本で経営する人材会社がリーマン・ショック後にいかに農業に取り組み事業転換をしていったかを実例を交えて語った。
ニュージーランドのカトリーン・ウェーバーさんは「教育面での連携ーJETプログラムの経験から」と題して、日系であることの利点を自身のキャリアでどう生かしてきたかについて述べた。
■ カナダから2名が発表「日系人の主張」
25日には5つの国と地域、カナダからの2名を含む9名の日系人が参加し、5分間スピーチ「日系人の主張」が行われた。これは自身の活動紹介や日本に対する問題提起などを各国の移住者の視点から行うイベント。
福島誉子さん(在加17年)は「認知症の人に優しい社会づくりを」と題して、認知症の啓蒙と情報交換を目的とする集い、「オレンジカフェ・バンクーバー」の活動を紹介した。オレンジは認知症啓発のシンボルカラーで、誰もが気軽に情報交換ができる場が必要としてカフェと名付けたという。
柴田祐子さん(在加44年)は留学生から日系カナダ人となった自身の体験を一つの客観的な女性史として紹介した。また日系のお年寄りの語る昔話の聞き書きを行う活動を通じて、そこに保存されている人々の知恵と知識が、物事を理解する複眼的な視点を与えてくれていると考えを述べた。
(取材 仲島尚 NakajimaTakashi Carlos)
24日には河野太郎外務大臣主催の歓迎レセプションが開かれた
昼食会にて、参加者に労いと歓迎の言葉を述べる伊達忠一参議院議長
鈴木大地スポーツ庁長官
日系カナダ人となった自身の体験をスピーチをする柴田祐子さん
認知症に関するスピーチをする福島誉子さん