2017年11月2日 第44号
10月28日、バンクーバー日系人合同教会で隣組支援のためのチャリティ・コンサートと特別講演が開かれ、岡井朝子在バンクーバー日本国総領事を主賓に約70人が出席。慢性腎不全と闘いながら演奏活動を続ける劉薇(リュウウェイ)さん(54)によるヴァイオリン演奏と話に聞き入った。
(左から)冒頭で挨拶をした岡井朝子総領事、劉薇さん、コンサートを企画した隣組のハイディ浜野さん
人口透析なしで14年
現在、日本全国には腎臓病患者が1300万人おり、そのうち38万人が人工透析をしている。14年前、背中が痛くて立っていられないと感じたリュウさん。人工透析が必要と言われたが、演奏活動を続けるために1日5時間の透析を拒み、少しでも腎臓を改善するために試みたのが食事療法だった。
たんぱく質、塩分、カリウムの摂取を制限するため、パンもバナナも半分、味噌汁はお湯で薄めるよう指示された。そんな中で試したのが雑穀類。きび、ひえ、粟などを白米と半々で炊き、あずきや大豆を入れることもある。白米のように濃い味のおかずも必要ない。「雑穀はよく噛んで食べるので頭や目の動きにもいいです」
音楽がバロメーター
リュウさんの幼年時代は、中国で西洋文化が非難されていた時代。西洋の楽器ヴァイオリンは父親が極秘で手に入れ、のこぎりで切って小さくし、練習中は音が響かないように綿を詰めてくれた。先生のところへ電車で通った日々。
「私にとって音楽がバロメーターなのです。体調の悪いときはこころが乱れ、ヴァイオリンの音はひどいものでした」
現在、腎機能は7.4パーセントしかなく、疲れると顔がむくみ足が重くなる。自分のからだの声を聞きながら、病気を通して生き方を学んだ。
「生の音が大切ですので、これからも細く長く演奏活動を続けていけたらと思っています」
希望を持って生きる
隣組元理事で、現在事務局長代理を務める浜野ハイディさんは知り合いを通じてリュウさんを知った。「一期一会。この出会いと、ご協力いただいたたくさんの方々に心から感謝します。リュウさんは、ヴァイオリンを弾き続けるという思いを持って強く生きておられます。そのことをバンクーバーの皆さんにもお伝えしたかったのです」と話す。収益金はシニア・ライトハウスプログラムやアウトリーチなど隣組の活動のために使われる。
リュウさんがソロ演奏した曲のひとつ『You raise me up(ユー・レイズ・ミー・アップ)』は、深みのある低音から澄んだ高音へと伸びていく曲で、“あなたが私を励まし勇気づけてくれる”という内容。
生きることへの希望を込めたリュウさんの演奏から、励ましをもらった人も多いのではないだろうか。
劉薇(りゅう うぇい):ヴァイオリニスト・音楽博士。1963年、中国・蘭州生まれ。7歳でヴァイオリンを始め、84年西安音楽学院ヴァイオリン科を最優秀で卒業後86年来日。東京芸術大で音楽博士号を取得。国内外で演奏活動を行い、大学でアジア音楽史などを講義。著書に『人工透析なしで10年!でも元気な私の食生活~腎臓を養う雑穀レシピ』(講談社)。アルバム『鳥の歌〜平和へ』など。Liuwei-musics.com
(取材 ルイーズ阿久沢)
中国人作曲家、馬思聡による『山歌』や内モンゴルの民謡『牧歌』など郷愁深い旋律ほか全9曲をソロ演奏した劉薇さん
アンコールは前田多枝さんのピアノ伴奏とともに『カンタービレ』(パガニーニ)
劉薇さんを紹介する刊行物やCD、著書など