2017年6月22日 第25号
深田晃司監督の映画『淵に立つ』がバンクーバーで上映される。昨年カンヌ国際映画祭の『ある視点』部門の審査員賞を受賞してから、国内はもちろん、アジアや世界中の国際映画祭で観客賞などの受賞が続き、今年は芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した。世界中から招待を受け、今日本で最も革新的と評されている監督。多忙なのに「特に何も変わっていません」と答える彼に『シンプル』という言葉がよく似合う。
深田晃司監督(ロッテルダムにて)
「人の一生は予測ができなくて最期まで終わりがない。でも僕たちは普段から予測できて完結する映画に慣れてしまっている」と話す監督。時間のかかった完成度の高い絵のような作品は、上映後かなり長く余韻が残る。音楽で涙を誘わないのは、「ある音楽を聴いて1つの感情に走られると自分の作品の意図が壊されてしまう危険性がある。カメラと被写体の関係が一番大事」だからだそうだ。
「100 人いたら100 通りの見え方がある映画」を目指す監督は、映画の持つプロパガンダ性にも気をつけている。映画は常に集団を動かす力があるので、主人公との同化、イメージ通りの筋書き、完結にあえて距離をとり、見る人の想像力に委ねる。世界に送る日本映画の中でもかなり型破りな部分を持つこの映画『淵に立つ』は、バンクーバー国際映画祭でも予測を見事に裏切り観客の気持ちを動揺させた。映画全体を支配していた主人公について尋ねると、監督から「彼は日頃目に見えないけれどいつ出現するかわからない『暴力』そのもの」という哲学的な答えが返ってきた。「またお客さんの想像力を開けるものを作りたい」と静かに微笑んだ監督の話題作を是非お見逃しなく。
(取材 ジェナ・パーク)