2017年5月4日 第18号

4月22日、日系漁師ゆかりの地であるブリティッシュ・コロンビア州リッチモンド市スティーブストンで、書籍『潮流』の出版記念式が行われた。会場のスティーブストン仏教会には約80人が集まり、本の完成を祝い、長い年月にわたった制作の労をねぎらった。

 

出版式の来賓と制作者たち。(写真左から)シェリー・カジワラさん、菅野文雄さん、田中ヘンリーさん、ケイコ・メアリー・キタガワさん、岡井朝子総領事、マルコム・ブロディ・リッチモンド市長、ビル・マックナルティ議員、田中ジムさん

 

迫害の歴史に耐えた日系漁師たちを称えて

 この本の制作は一連のプロジェクトの最終企画だった。日系漁師の長い歴史と彼らが残した貴重な無形の遺産に敬意と感謝の意を表し、後世に残したいと願った日系三世の有志たち。その有志と、彼らの呼びかけに賛同した人々により2001年、三つの企画を含む「日系漁師リユニオン・プロジェクト」が立ち上がった。同年、日系漁師と家族を招いて実施した「リユニオン・ディナー」。その後の日系漁師像の建立(2002年)。そして日系漁師の自伝をまとめた本の制作企画である。『BC州沿岸の日系人漁師 伝記と写真集』が、すでに出版されている(2007年)。そして、このたび完成したのは、故・ 林幸太郎さん、菅野文雄(フランク)さん、田中ヘンリーさん、田中ジムさんが中心となって制作した、多くの写真と日系漁師の体験を含むハードカバーの本『潮流』である。この出版をもって同プロジェクトはすべて完遂となった。

 

プロジェクトの完遂を祝して

 式は日系博物館ディレクターのシェリー・カジワラさんの司会で進められた。冒頭で挨拶に立った岡井朝子在バンクーバー日本国総領事は、貴重な体験を盛り込んだ『潮流』完成を称え、大変根気のいる本プロジェクトのイニシアチブを取ってきたメンバーたちへ慰労のメッセージを送った。リッチモンド市長マルコム・ブロディ氏は「日系漁師の歴史の証人として、この場にいることを誇りに思う」と挨拶。本の書評を担当したケイコ・メアリー・キタガワさんは挨拶の中で、日系漁師が漁業権の制限、剥奪、漁船の没収といった迫害に遭いながらも彼らが辛抱強く耐えてきたことに触れ、「本書に寄せられた個人の実話ひとつひとつがカナダのあの時代を物語る必要不可欠なものであり、その時代があったことは決して忘れられてはならないものだ」と語った。

 

日系漁師の記憶と体験を残し、彼らへの感謝の気持ちを継承

 本の制作者の一人、田中ヘンリーさんは挨拶で、インタビューに応じて体験を語る、あるいは文章に綴る形で協力した日系漁師やその家族をはじめとする人々、そして協力組織や団体に感謝の意を表した。さらに「戦前」「抑留」「再定住」「船舶製造者」「戦争とミフリン・プラン後の時代」の六つに章立てされた本書の中からいくつかのエピソードを抜粋して紹介。その後「初期の移民たちにありがとうと言いたい。この本はあなたたちのためのものです。この本を読んで、日系漁師と家族たちが漁業やコミュニティ、そして豊かな多民族の歴史の形成にどれだけ貢献してきたかをより理解していただきたい」と結んだ。万感の思いが込められた本書の存在は、日系漁師の辛苦の時代を知る世代が減るにつれて、より大きな意味を持っていくことだろう。

(取材 平野 香利) 

 

『潮流 CHANGING TIDES』の制作者。(左から)田中ジムさん、菅野文雄さん、田中ヘンリーさん。同書と『潮流NIKKEI FISHERMEN ON THE BC COASTーTHEIR BIOGRAPHIES AND PHOTOGRAPHS』(部数限定)は日系博物館で購入できる

 

日系漁師に協力的だったジェリー・ミラーさんの自伝のページを開くケン・ミラーさん。ケンさんが幼い少年だった頃の写真が載っている

 

同書に掲載されている日系漁師トーマス・マドコロさん(97歳)と家族の皆さん

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。