2017年4月20日 第16号

今年もカナダセブンズは大成功で幕を閉じた。3月11日、12日にバンクーバー市BCプレースで開催された7人制ラグビー男子トーナメント「HSBCワールド・ラグビー・セブンズ・シリーズ2016‐2017」。世界10都市で開催され、カナダ大会「カナダセブンズ」としてバンクーバーで行われるのは昨年に続き2回目。今年は日本代表もコアチームとして参加し、16チーム中14位だった。

 

岩渕7人制総監督。リオ五輪では、他の競技との兼ね合いで4位では注目してもらえないことが分かった、メダルを取って初めて注目されることを痛感したと笑った

 

 今回チームを帯同した日本ラグビーフットボール協会理事、チームジャパン2020男女7人制日本代表総監督、および女子15人制強化委員長を務める岩渕健輔氏に話を聞く機会を得た。

 同トーナメントは、これまでも毎年開催されていたが、7人制は最近特に注目を集めている。2016年リオデジャネイロ五輪から正式種目になったことが理由だ。そのため、これまで7人制に力を入れていなかった国でも、五輪を目指して取り組み始めた。日本もそのうちの一つ。

 特に日本は次期開催国であり、出場が確定している。日本代表は昨年のリオ五輪には男女とも出場。男子は4位と健闘した。ラグビー日本代表は2015年の15人制ワールドカップ(W杯)では、南アフリカに勝利するという大金星をあげ注目された。2019年には日本でW杯が開催される。

 ラグビー二大大会日本開催に向け、順風満帆のように見える日本ラグビー界だが、まだまだ課題が多いという。特に7人制は男女とも強化を始めたばかり。リオ4位の実績が東京でメダルを狙えることを保証するほど甘くはない。東京五輪に向けての課題や2020年以降の国内7人制に必要な対策、さらには女子ラグビーの現状などを聞いた。

 

常勝できるチームを目指して

 カナダセブンズでの目標はベスト8入りだった。まずは初戦のアメリカ戦で勝利して、勢いに乗るはずだった。しかし結果は0‐52と完敗。インタビューは大会1日目、第2試合オーストラリア戦で7‐36で負けた後に行われた。ここまで「全然良くないですね」と2試合を振り返った。「いつも大会で1日目の第1試合の出来が悪くて」。

 日本は昨季、このセブンズ・シリーズにコアチームとして参加できなかった。2015年に行われたコアチーム予選大会で優勝し、今季のコアチーム入りを果たした。そのため「実力的には一番下というのは間違いない」。参加していきなり上位を狙えるとは思っていない。コア常駐チームはラグビーが盛んな国ばかり。ほとんどは15人制、7人制と専任選手で戦っている。

 しかし、日本は15人制の選手が7人制でプレーしているという状況だ。「リオが終わって、メンバーも変えて、東京オリンピックに向けて、もう一回新しく、スタッフも変えて、スタートしたので」。そういう意味では、大会成績はある程度覚悟はしていたという。ただ順位よりも「チームがやろうとしていることが、なかなかうまくいかないことの方が、ちょっと歯がゆいですね」と語った。

 日本代表はリオ五輪が終わり、次の地元開催に向け強化をしている。セブンズ・シリーズでのコアチームとして参加することで、10大会を経験することができる。これを7人制に特化した選手を育てる機会と捉えている。

 日本は、高校、大学、社会人と、「基本的に15人制ラグビーで支えられていて、その中で7人制だけをプレーする選手を作り出すのは、すごい難しいことなんです」。

 しかもラグビー人口も強豪国と比べると格段に少ない。例えば、日本の競技人口は「10万人しかいないんです。イングランドが200万くらいです。予算も(日本は)イングランドの10分の1くらい。そういう意味では、(人口)一億人からすると競技人口は0.1パーセントです」。

 さらに、日本にとって7人制ラグビーが厳しいのは、競技そのものの特徴にもある。7人制ラグビーを観戦したことがある人は分かると思うが、フィジカルな強さが勝敗を圧倒的に左右する。「日本人には相当厳しいんですよ。大きくて早くて力がある選手が今プレーしていますし、日本は、小っちゃくて足が速いっていうのは結構いるんですけど、おっきくて、そういう人ってなかなか少ないんですよね」と笑う。

 それでも東京五輪はやって来る。「7人制っていうのは14分しかないので、うまくゲームが運べれば、15人制よりも勝つ可能性っていうのは高いと思うんですね」と岩渕氏。「だから、ゲームの特性上、7人制のラグビーは日本にということではなくて、誰にでもチャンスがあることは間違いない」。だからこそうまく強化できれば食い込むこともできる。

 事実リオでは4位と好成績を残した。しかし、岩渕氏に言わせれば4位で止まったのは「まぐれは簡単には続かないってことなんですよ」。日本は一戦必勝は「結構得意」という。2015年W杯の南アフリカ戦でも、リオ五輪の初戦ニュージーランド戦でも、勝利して大金星をあげた。メディアでも注目され、日本ラグビー全体が強化されたように見えたが、「15年のワールドカップ、16年のオリンピックと、私両方担当したんですけど、実際にはその時だけなんですよね、勝ったのは。7人制はリオ以外は、ほぼ全て苦しかったんですね」。

 ほんとに優勝するチームというのは、「例えば、野球の(鈴木)一朗選手が、いつやっても3割打つのと一緒。やっぱり、(打率)1割ホームラン15本じゃだめなわけですよね。今の日本のラグビーは、そのレベルなんですよ」。だから4年をかけて「ほんとにきちんとした地力をどれくらいつけられるか、オリンピックの年とか、その前年くらいに、コンスタントにベスト8に入って、それでベスト4をいつもうかがえるってなると、メダルをほんとに取れるか取れないかっていうレベルに来てると思うんです」。

 

選手のリクルートからメダル獲得まで 女子ラグビー環境を整える

 ラグビーW杯も五輪も、男子だけではもちろんない。女子(サクラセブンズ)も五輪に出場し、昨季は「HSBCワールド・ラグビー・女子セブンズ・シリーズ」にコアチームとして参加した。15人制も今年8月アイルランドで開催されるW杯に4大会ぶりに出場する。とはいえ、国内の女子ラグビー状況は、まだまだ厳しい。

 7人制・15人制の両方を担当する岩渕氏は、やることは山積みと笑う。「女子は正直、日本のラグビー協会としても、オリンピックがなかったので強化をしていなかった。だから、選手とか、そこで携わる数人のスタッフが結構がんばって、やってたっていうのがあって」と、リオ五輪を振り返った。

 2012年から本格的に強化。当時は、アジアでも7、8番くらい。そこから五輪のために「かなり無理して強化をして、なんとかオリンピックに行ったんです」。しかし、「女子の方がもっとフィジカル的には差があるんですよね」。結果は12カ国中10位。ケニアへの1勝に終わった。

 そんな状況で、どこから強化を始めるのか。東京五輪出場はすでに決まっている。目標はもちろんメダル獲得。まずは選手のリクルートから。以前他競技をやっていた選手をラグビーに取り込む。「身体能力が高い選手をどうやって集めるかっていうのは、ひとつ大きなポイントで、『種目転向』の選手をいろんな所でトライアウトして、探して、なんとかやってるところです」。

 さらに競技人口を増やす。リオ五輪前は2000人だったが、現在は4000人に。小中学生の若い世代で増えている。小学校ではすでに、中学校でも来年から学習指導要領にタグラグビーが追加され、女子でもラグビーボールに触れる機会が増える傾向にある。高校でも、大学でも、部活動も増え始めている。

 しかし、なかなか高校生くらいの競技人口が伸びにくい。ラグビーは多種多様な競技の中でも最もハードなスポーツ。年頃の若い女性が喜んで続けるスポーツとは言い難い。競技人口目標も「高校以上で1000人を確保することが、やっぱりまず大事かなって思っています」。ここが伸びれば、あとは必然的に伸びてくると考えている。

 そのための環境整備にも力を入れている。女性がスポーツを続ける環境は、どの競技でも、どこの国でも課題だ。ラグビー協会では、子供がいる日本代表選手をサポートするプログラムを始めたり、女性スタッフや関係者にも、そういう環境を広げたりすることで、「少しでも将来設計も含めて女子の選手たち、スタッフにいい形ができるようにと今、整備をしているところです」。

 こうしたかなり高いハードルもあるが、男子よりも、やりやすい環境もあるという。それは、ここまで強化されていなかった分、15人制のピラミッドという確固たる仕組みに呪縛されないため、7人制の強化をしやすい。「女子は7人制で今ピラミッドみたいなのを作って、国内のサーキットもスタートして3年目になります」。

 さらに監督、コーチなどの指導者、審判、データ分析などのスタッフなどでも環境を整えていきたいという。リオ五輪には浅見敬子ヘッドコーチがチームを率いた。五輪で唯一の女性監督。女性監督が即結果に結びつくことはないが、女子選手がラグビーを続けていく受け皿は確実に増える。

 

 こうしてみると男子も女子も、課題は山積み。それでも、2019年日本W杯、2020年東京五輪は確実にやってくる。「日本にワールドカップとオリンピックが続けてやってくる、すごく貴重な機会なので、代表チームがまず勝つということは大前提で成し遂げなくてはいけないと思っています」。

 地元で勝てばラグビーが盛り上がるし、国内のファンも増える。ファンが増えれば競技人口も増える。

 男子は現在、セブンズシリーズ・シンガポール大会を終え15位。コアチームでは最下位。14位ロシアとは9ポイント差と厳しい状況だ。残りあと2大会でロシアを捉えられなければ来季のコア参加権を失う。

 女子は、セブンズ女子シリーズに今季はコアとして参加権を持たないため、招待参加となっている。しかし4月6、7日に行われた来季のコア予選大会で優勝し、コア参加権を獲得した。4月22、23日には北九州でセブンズ女子シリーズが開催される。

 五輪目標は男女メダル獲得。「全然簡単ではないんですけど、でもやっぱりそのくらいの覚悟を持ってやる必要があるし、あと3年半でまだまだやれる手はあるので、それを一つずつしっかりやっていきたいと思っています」。そしてその先がある。2020年は、あくまでも日本ラグビーにとっては常勝チームを作るための通過点。地元開催でメダルを獲得し、ラグビー界全体を盛り上げ、その先を目指す。 挑戦は始まったばかりだ。

(取材 三島直美 / 写真 斉藤光一)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。