2017年3月23日 第12号
本紙で『帝国ホテルで学んだ無限リピート接客術』を連載中の福本衣季子さんが、3月末で日本に帰国する。帝国ホテルで客室、レストラン、ルームサービスを経験。出産、子育てで中休みを経て、同ホテル子会社で、関連会社の和食店女将として勤務するなど、おもてなしのプロとして活躍してきた。それらの経験を基に書かれたのが、『帝国ホテルで学んだ無限リピート接客術』だ。
福本依李子さん
バンクーバーに滞在した期間を教えてください
2015年10月初めから2017年3月31日までになるので、1年半です。
昨年2月のインタビューでは、著書についてや、福本さんが開催されている日本料理の食卓作法や日本のおもてなし講座についても話を伺いました
今年は大人向け以外に、グラッドストーン日本語学園、CJLA日本語アカデミー、スティーブストン日本語学校(五十音順)で子どもを対象としたお箸の使い方などの講座を開催しました。大人向け以上に好評でした。スプーンと鉛筆は、お箸を持つ以前にうまく使えることが基本になるので、その使い方も練習しました。参加者は大体4歳から12歳が対象でしたが、特に感心したのが、その日最年少だった3歳の女の子です。小さなお手々で上手にスプーンやお箸を持っていました。やはり、お箸の持ち方は子どものうちに習得させるのが大切だとつくづく感じました。
お箸の持ち方の練習として、最初にポップコーンを10個つまませ、次にクマの形をしたゼリーの「クマさんの手や足」をつまませました。ポップコーンでさえつまめない子が、ゼリーをつまもうとしていたのにはびっくりでした。
それから、カナダ初の七田キッズアカデミーを運営している高橋さんに、一度お会いしたいなと思っていたら、タイミングよく高橋さんがFacebookで見つけてくださりました。おかげで、直接会って話ができました。お子さんの立ち振る舞いや箸使いなどは、お受験でも大切なのだそうです。
おもてなしのプロの福本さんから見た、バンクーバーのサービス産業についての印象を教えてください
バンクーバーの大半を見たわけではありませんが、第一印象としてスタッフ教育はしていないというところが多いように思いました。しかも、スタッフ教育をしていないと感じるのは繁盛店以外のレストランです。ということは、繁盛しているところは、もともとスタッフ教育をしているのかもしれませんね。
サービスが良いとされている某ホテルでも、スタッフが心から「言っている」のではなく、マニュアル通りという印象を受けました。そういうところは入口(レセプション)は入口の仕事、テーブル担当はテーブル担当と個で動いていると思いました。それではテーブル担当はオーダーを聞いて運ぶだけの運び屋さんに。受付は予約を聞いたり、席の調整をするだけになってしまいます。それではサービスが「ぶつ切り」になってしまいます。やはり混雑をしていればしているほど、お客様の顔を見ながら今何が必要かを読み取り、「お待たせして申し訳ございません」、「お時間は大丈夫でしょうか」など、歩み寄るコミュニケーションがレストランの印象を良くします。どのレストランもバンクーバーの顔として頑張ってほしいと思います。
その意味で私がバンクーバーで素晴らしいと思っているのは、RホテルのTレストランです。Tレストランで化粧室に行きがけに、調理場とホールスタッフの会話を目にしたのですが、それがとても良い雰囲気でした。雑談ではなく仕事の話のようでした。なぜ仕事の話とわかるかといえば、慣れの中にも緊張感があったからです。私は長年サービススタッフや調理人をたくさん見てきたので、雑談と仕事の話の区別はすぐに分かります。
また、ある時は予約なしで行った時のこと。受付けが混雑でキャンセルをしようとしたときに、ホールスタッフが予約表を見て「一時間ぐらいなら、座っていただけます」と案内してくれました。せっかく来てくれたお客様に無駄足をさせないための努力が、きちんと伝わった瞬間でした。
また、カナダ人以外のスタッフに関しては、語学滞在ですぐに帰ってしまう人が多いのもバンクーバーの特徴かもしれませんが、「すぐ帰ってしまうから」教育することをあきらめてしまうのではなく、「ここで良い思い出を作ってほしい」、「ここで一緒に働けて良かったと思ってほしい」という考え方を、責任者やオーナーの人が強く持ってくれるとサービスの質も違ってくるのに、と残念に思うこともありました。
もちろん、そんなふうに考えるのはスタッフ本人の問題でもありますが、スタッフが気持ちよく働けるようにオーナーが努めるのも大切なことです。
バンクーバーでの1年半を振り返ると、時の流れがゆっくりしていて、すごく成長できたという福本さん。日本に帰国してすぐ、サービス業におけるホスピタリティについて講演を行う予定だ。実は『サービス業』にとって『ホスピタリティ』を実践することは、とても難しい問題だそうだ。難しくても「お客様のために考えることが大切なんです」と笑顔で語った。
(取材 西川 桂子 / 写真提供 福本依李子さん)
CJLA日本語アカデミーでお箸の所作を指導