2017年1月26日 第4号

前日までの雨も止み、青空がのぞき、時おりおひさまも応援してくれた糸東流空手道正晃会の寒稽古が、1月21日、バンクーバー市のイングリッシュベイで行われた。50人を超える練習生が集まり、砂浜での柔軟体操、形の練習などで、すっかり汗かくほどに温まったあと、いざ、海中へ。蹴りや突きの形をしたり、水の掛け合いではしゃいだりで大いに盛り上がる。水から上がるとみんながハイテンション。笑い転げたり、海中へ押し戻したりの大ハシャギ。

 

海へ感謝の『突き!』を

 

47回目の寒稽古、ここから新年が始まる

 糸東流空手道正晃会・佐藤義晃師範が、バンクーバーへ移住した翌年から連綿と続けているこの寒稽古。いまやイングリッシュベイの恒例行事となっている。見物人も顔なじみの人もいて、テレビ局からの取材も入り、CBCニュース、CTVニュースで放映された。

 「なんで冬の海へ?」「アンビリーバブル!」という声にもうなずけるが、毎年、ほとんど同じ人が参加し、新年のスタートを切っている。参加者の声を拾ってみると、「海から上がると温かい」「何か、清々しい感じがする」「去年あった嫌なことはすっかり洗い流しました」など、ちょっと興奮状態で話してくれた。

 佐藤師範は、「人生には、予期せぬ苦難がある。そんなときも克服できる精神力を鍛えておくのも無駄ではないと思います。その一助にもなればと思い、続けています」という。豊かな時代に『ガマン』という言葉は、もはや死語に近いのかもしれないが、参加者は若い人たちの、しかも日系人と文化の違う人たちが多数を占めていることに驚かされる。

 日本武道がもっとも重要とする礼儀、忍耐力といった精神性を、むしろ柔軟に取り込んでいるように見えた。最近、子供の入門者が多くなっていると聞くが、親からは『礼儀や積極性』のしつけを依頼されることが多いという。マスコミ等でも日本人の公共マナーについて報道されることによる影響があるのかもしれない。

  「武道の精神性」と聞くと、日本人には何か重々しく感じられるが、バンクーバーの糸東流空手道正晃会道場や今日の寒中稽古の雰囲気は実に明るく、カジュアルにさえ思える。女性の練習生が多いのにもそうした要因があるのだろう。もちろん、練習のなかに伝統的な礼儀作法や、初心者への気づかいとやさしさが随所に見られる。日本武道の文化にインターナショナルな文化が融合した新しい武道の「カタチ」が感じられる。必ずしも強さだけを優先しない日本武道が、世界に広がるゆえんといえるだろう。  

 

『STOP DRUG(ドラッグを止めよう)』に、 空手道がひと役

 空手道の門下生に、警察関係者も多く、彼らに「ドラッグからの誘惑に負けない強い精神力を鍛える空手道をアピールをしてはどうか」と相談を受けることがある、と佐藤師範が語っていた。なるほど、ドラッグの誘惑は、ふとした心の隙間に忍びこむといわれる。近年のドラッグは、新種も多く、手を染める垣根がどんどん低くなっていて、危険性も高まっている。そんな危険からは、自らが守らなければならない。佐藤師範は、日常の練習の中に、「誘惑に負けない強い心を鍛えよう」と、警察関係者などの協力を得ながら、『STOP DRUG』を進めていきたいと語っていた。CANADA日本武道振興会は、毎年2月のピンクシャツデーの『STOP BULLYING(イジメを止めよう)』キャンペーンに協力しているが、イジメ問題と隣り合わせにあるドラッグ問題にも積極的な関与を強めていただきたいものである。

(取材 笹川 守)

 

UBCの空手クラブの面々

 

初心者に佐藤師範自らやさしく指導を

 

最年少参加のイバ中津ちゃん2歳

 

老若男女の区別なく気合を込めて

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。