2017年新春特別号

ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市の西端に位置する広大なキャンパスを持つブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)。カナダでも歴史ある大学の一つで、多くの優秀な研究者を輩出してきた名門大学だ。

そのUBCの第15代学長にサンタ・J・オノ教授が就任した。2016年8月に着任、11月22日に就任式を終え、本格的に始動。日系二世のサンタ・オノ(小野三太)学長はUBC史上初の日系学長としても注目されている。

カナダで最も国際色豊かな大学のひとつとしても知られるUBC。昨年迎えた100周年から次の100年へ。コミュニティとのつながりを大事にしながら、あらゆる面でさらなる多様化を目指したいというオノ学長に話を聞いた。

 

両親がUBCキャンパス内に住んでいた頃は、日系カナディアン作家ジョイ・コガワ氏と1軒を挟んでの近所付き合いだったという。コガワ氏はオノ学長の就任式にも出席していた

 

「自分にとって特別な場所」

 UBC着任前にはアメリカのオハイオ州シンシナティ大学で学長を務めていた。それまでもアメリカの大学で数々の実績を残している。実際シンシナティ大学からは高待遇での残留要請もあった。それでもUBCを選んだ。

 「それはUBCだから。この大学は自分にとって特別な場所」と語った。自身バンクーバーで生まれ、父の孝氏はUBCで教授をしていた。当時はキャンパス内に住み、家族にとっても特別な場所でもある。

 「それにUBCは非常に優れた大学」とオノ学長。「いつかはカナダの大学で学長をしたいと思っていました」。

 自分の中では学長をやってみたいと思う大学が3校あったという。UBCはそのうちの一つ。「そういう意味ではUBCは自分にとって理想の大学。今ではここ以外の学長は考えられない」と笑った。

 

日本とのつながり

 バンクーバー生まれとはいえ、1歳で家族と共にアメリカに移住したため、幼少期のバンクーバーでの思い出はない。バンクーバー日系コミュニティとの関係もこれからと楽しみにしている。

 それでも日本とのつながりは深い。両親は日本生まれの日本育ちで、父の孝氏がUBCに数学教授として赴任のため1959年にバンクーバーに。親戚は家族以外、日本在住。今でも交流がある。

 日本語は「話すのは得意ではない」とはにかむが、「言っていることは全て分かる」という。インタビュー中も家族のことなど日本語を交えて話す場面が時々あった。日系人であるということをとても大事にしている。「それってやっぱり普通なことだと思いますね。自分が誰なのかを考える時、両親が日本人であることや、日本という国のことを考えますし。それに私には祖父母に会うチャンスもありましたし」とうれしそうに話す。

 そこから話は家族の系譜へと移った。オノ学長の父の孝氏、兄モモロウ氏、弟ケン氏はいずれも大学教授。オノ氏の父方の祖父は千葉県知事を務め、母方の祖父は三菱重工に勤めていたという。親戚には、父母両方の叔父、いとこを含め5人が大学教授という学者家系。「学者がいっぱいだよね」と笑った。

 本人は京都大学で研究休暇をとったこともある。千葉大学からは2016年に名誉教授の称号が授与された。祖父の元千葉県知事とは全く関係なく偶然という。またオハイオ州在住時代には同州の日本総領事館名誉総領事も務めた。日本はずっと深く自分の周りにあった。「少しでも知ってもらいたかった」と笑った。

 

音楽は心のバランス

 家族の中では1人異色な存在と笑う。「私の父は2つのことを愛しています。一つはピアノ。これは兄がピアニストになりました。もう一つは数学。こちらは弟が数学者になりました。私はどちらも得意ではなかったので」と笑った。

 だから自分は自分の好きな道を選んだ。音楽ではチェロを好み、仕事としては実験医学の道を進んだ。人生の選択は自分で切り開いてきた。「自分がある意味、特異な存在であるということはすごく心地いいですね。家族は私が何をやっているかあんまり理解していないようですけど」と笑った。

 チェロはコンサートを開くほどの腕前を持つ。「私の人生にとって音楽はすごく大事な存在。チェロは、これまでもずっと私の人生でバランスを保つ存在でしたし、私の心を満たしてくれる存在です」と語った。

 

大学に必要な「多様性」

 UBCにアジア系の学生が多いことを「素晴らしいこと」と語った。アメリカの大学とは異なる点だ。就任式でのあいさつでは、「多様性」をこれからのUBCの成功のカギにあげた。「大学が多様化すればするほど、誰もがその恩恵を受けるから」と理由を語る。「いろいろな人たちと話をすることで様々なことが学べます」。

 シンシナティ大学でも多様化を進めてきた実績がある。UBCでは「今年、多様化と受容の中期的な計画を立てようと思っています」。

 世界が多様性と受容に不寛容に傾いている中で、厳しいこともあるに違いない。「チャレンジというのは常にあるもの。だからといって諦めるのではなく、それを越えるようにチャレンジしていくことが重要だと思う」と前向きだ。すでに国内でも国際色の豊かさでは1、2を争う。そうしたこれまでの実績を踏まえた上でのさらなるチャレンジにコミュニティでも期待がかかる。

 さらに一層の国際化にも力を入れる。独立したインターナショナルオフィスを立ち上げ、専任局長を配属する。「UBCはすでに非常にグローバルな大学だと思っています。しかし、この先5年から10年にさらにグローバルになれる可能性がある」。

 現在、留学生の割合は25パーセントという。「例えば、カナダのマギル大学、アメリカのスタンフォード、ハーバードなどは、この上をいっています。UBCもまだまだ改善する余地はありますね」と国際化への貪欲な意欲を見せた。

 

新しい分野のさらなる充実

 大学にとって多様性の重要性は研究対象の充実にも適応される。これまでUBCが築いてきた基礎研究に加え、応用研究にも力を入れていく。

 特に言及したのが環境問題を対象にした分野。「UBCはサステイナブル分野に関してはすでにトップクラスで、スタンフォードと並んで北米ではトップ2に入ると思っています」。

 それでも就任式では特に、クリーンウォーター、持続的再生可能エネルギー、世界的食料供給、慢性病の分野に力を入れると述べた。これについて「これらをあげたのは、教授、研究者、学生らが一緒になって、学部や学科を越えて研究できる分野であり、UBCが取り組むことができる世界的に大きな問題となっている分野だからです」と説明した。クリーンエネルギーなどすでにトップクラスの研究実績を基に、これからの国際問題に取り組む分野であると強調した。

 もちろん海外の大学や研究機関と協力できる分野でもある。これらの分野を通して社会に貢献できる成果を上げていくことが、これからのUBCにとって重要と語った。

 

日系コミュニティをもっと知りたい

 読者に向け、「日系コミュニティの皆さんとこれからお会いできるのを楽しみにしています」とメッセージを送った。もちろんバンクーバーの日系コミュニティの歴史も学んでいるし、すでに多くの人々と会って話もしている。「UBCに何ができるか、未来に向けて共にどういった貢献ができるかなどをお話ししました」。日本の大学機関との連携を強化するために、日本訪問も計画しているという。

 「私が日系コミュニティの皆さんにぜひ伝えたいことは、皆さんから私に積極的に声を掛けてくださいということ。みなさんのことをこれからどんどん知りたいと思っています」と語った。

 積極的にコミュニティと関わり、人々の話に真摯に耳を傾けるという姿勢はシンシナティ大学学長時代からのもの。そのツールとしてSNSを積極的に利用した。UBCでも変わらずSNSで発信している。ツイッターのフォロワーはすでに9千を超えている。Santa J. Ono(@ubcprez)でチェック。インスタグラム、フェイスブックでも同様に発信している。

(取材 三島 直美 / 写真 池上 由布子)

 

とても気さくで柔和な語り口のオノ学長。人柄の良さが周囲に優しい雰囲気を作り出している

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。