2017年新春特別号

2016年4月26日に 在バンクーバー日本国総領事館に着任

 

岡井総領事(写真 斉藤光一)

 

赴任されて半年以上経過しましたが、着任当初と比べてバンクーバーの印象は変わりましたか?

 ポテンシャルが高く、やり甲斐がありそう、と思った印象そのままが続いています。初夏の美しい青空と今の雨空では景色が大いに違いますけどね。

赴任してから、バンクーバーに住んでいる人が行く機会があまりないダンカンなども訪れていらっしゃいますね。

 日本と姉妹都市関係にある管轄地域内の34市町村のうち23に足を運び、11人の首長とお会いしました。特に日系人にゆかりのある地を重点的に訪れ、日系人墓地のあるポートアルバーニ、ナナイモ、ビクトリア、ダンカン、シュメイナス、日系人収容メモリアル・センターのあるニューデンバー、オカナガン地方、キャッスルガー、ネルソン等の他、ユーコンのホワイトホースにも行きました。

2016年を振り返って、特に印象的だったことを教えてください。

 3点挙げたいと思います。一つは、7月にサレーで行われた女子ソフトボール世界選手権で皆さんとともに声援を送ったことを契機に、2020年東京オリンピックを強く意識したこと。折しもリオから東京へバトンが渡され、ソフトボールが公式種目となりました。安倍政権の「日本再興戦略」には2020年を目途に様々な数値目標が設定され、具体的な社会経済構造改革プログラムが始動しています。私の当地での取り組みはこれらを強く意識したものとなるでしょう。

 2つ目は、日系移民の歴史に触れたことです。苦労を経て第一次世界大戦に従軍した日系人がアジア系として初めて選挙権を獲得したこと、財産を没収され収容所に入れられ、東に行くか帰国するかを迫られたこと、戦後も差別に苦しみながらも、カナダに同化し、社会経済の発展に貢献してきたこと、このような歴史に触れるにつけ、今のカナダが多文化主義を標榜し、多様な文化と伝統を、同化ではなく、共存させることが国の力の源泉だとしていることの意義がよく分かります。

 3つ目は日本の約27倍というカナダの広大な国土に関連することです。カナディアンロッキーを訪れ、雄大な自然に感動する一方、温暖化による氷河の後退もこれまたスケールが大きく、びっくりしました。また、日本政府は3年前に東日本大震災の津波のガレキの除去のために百万ドル寄付しましたが、いまなお太平洋を横断してカナダに漂着しています。気候変動対策や防災など地球規模の課題は、協力して解決する必要があると強く感じています。

総領事は日加関係、特にBC州、ユーコン準州と日本の結びつきについて、絆を深めていくことがお仕事の一つだと思うのですが、どのように取り組んでいきたい、またこの分野に特に焦点を絞りたいなどありますか。

 私が焦点を絞るのではなく、ポテンシャルがある分野を後押しするのが私の役目と考えています。総領事館がお手伝いすることにより、新たな可能性が広がるものがあれば協力を惜しみません。

 経済面では、すでにバンクーバーに250社以上の日本企業があり、日本政府としてビジネス環境の改善等のお手伝いができます。また、新規開拓をお手伝いできる分野もあると考えます。

 例えば、ここBC州では、資源に加え、テクノロジーやグリーンエコノミー、デジタル・エンターテインメント産業でも成長を遂げ、日本のITやゲーム関係企業の当地進出も進んでいます。日本もアベノミクスの「日本再興戦略」で新たな有望成長市場の創出を目指しています。私が当地との関係でとりわけ着目しているのは、テクノロジー、クリーンエネルギー、中小企業支援、攻めの農業、観光立国、人材育成、地方創生、インフラ輸出、防災といった分野です。

 クリーンエネルギーは、気候変動対策でも極めて重要です。昨年11月、大阪府の水素燃料電池業界の方々と、当地関係者とのビジネスマッチングの機会がありました。両者がバリュー・チェーンに組み込まれることにより、脱炭素社会実現に向けて共同で市場開拓が進むことを期待しています。

 また、日本は、観光立国の実現に向け、2020年までに、訪日外国人旅行者数を今の2千万人から4千万人に倍増する目標を掲げています。訪日カナダ人増加に向けてのワーキンググループなど、旅行業界と連携しながら、これに資する取組みを行う考えです。

 さらに、攻めの農業として、輸出の拡大を目指しています。地方の農産品の販路拡大のため、昨年11月に公邸で大分県産農水産品商談会を開きました。世界的に日本食・日本酒ブームが根強いこともあり、当地での需要はまだまだ伸びると思っています。和食文化は日本の魅力の重要な構成要素なので、大いに宣伝していきたいです。

 その他、再興戦略では様々な改革を支える人材の育成・確保も重視しています。英語を駆使し、国際社会に通用する人材、産業構造の改革に堪えうる人材が必要となるわけですが、ここBC州には日本人がそのための教育を受ける機会も、日本で英語教育や観光産業を支える人材も、新しい産業の需要を補完する高度人材もたくさん見つけられるでしょう。双方向の教育交流の促進は、観光や産業への遡及効果も大きいですし、BC州も力を入れているので、協力して取り組みを強化する考えです。

 絆を深めるというのは、これまでの深い結びつきをベースに、日本が好き、日本に関心があるという層を新たに増やす、ということも意味すると考えます。ですので、日本の多様な魅力をより幅広い層へお伝えしていきたい。幸いバンクーバーには、文化・人的交流に携わっている団体、機関がたくさんあり、日本文化紹介、交流促進の素地は大いにあります。積極的に連携を図ることにより、相乗効果を一層高めたいです。

昨今、テロ事件をはじめ、日本人が事件、事故に巻き込まれるケースが起きています。邦人支援についてもお聞かせ下さい。

 カナダは、比較的治安のよい国とされますが、犯罪発生率は日本の5倍、バンクーバー市内では8倍で、邦人の皆様が被害に遭う確率も実は高いのです。邦人の皆様が事件・事故に巻き込まれることのないよう随時安全情報を発出していますので、日頃より注意を払っていただければ幸いです。

 ところで、バンクーバーで今後50年間にマグニチュード9級の大地震が発生する確率は30パーセントといわれており、ナオミ・ヤマモトBC州政府緊急事態対応州務大臣も種々取り組まれているのですが、1700年以来発生していないこともあり、なかなか意識の啓発が進まないのが実情です。日本の防災の教訓を当地で共有するため、昨年11月に、専門家7名をお招きして、大地震に焦点を当てた防災ラウンドテーブルを開催しました。在留邦人の皆様にも大地震を想定した安全の留意点なども発信していきたい考えです。

今年の抱負についてお聞かせください。

 コミュニティのニーズにきめ細やかにお応えできる、親しみやすい総領事館を目指して、新年も気持ち新たに取り組みます。例えば、領事窓口のサービス向上とともに、医療・福祉・高齢者対策セミナーの開催や体の不自由な方や高齢者の方のための領事出張サービスも積極的に行っていく考えです。また、先述のとおり、様々な分野で交流をより一層活発化させるよう力を尽くすつもりです。皆様のご協力あっての総領事館です。引き続き皆様のお知恵、お力をお貸しください。All Japanで日本を盛り立てていければと思っています。

(取材 西川 桂子)

 

女子ソフトボール日本代表チームの激励会(於:総領事公邸)(2016年7月25日)(写真 斉藤光一)

 

日系ホーム(現・ロバート・ニイミ日系ホーム)・新さくら荘訪問(2016年7月7日)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。