2016年12月15日 第51号

12月7日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館で、古本の贈呈式が行われた。贈り主は北海道から訪れた千歳高等学校国際教養科2年生の皆さん。

式典は日系センター事務局長・ロジャー・レイミーさんの挨拶で始まった。続いて登壇した理事長の五明明子さんにより、日系カナダ人の歴史から日系文化センター・博物館の生い立ち、恒例行事である「古本市」と今年5月にオープンした「古本屋さん」などについての話があった。

日本人移民第1号として、明治10年(1877年)に22歳の若さで密入国した永野万蔵の紹介から始まり、第二次世界大戦中から1949年まで続いた強制収容や財産没収の事実、1988年カナダ政府によって謝罪されたこと、補償支払いがあったこと、その際コミュニティに支払われた補償金が日系センターの土地の購入にあてられたことなどが語られ、生徒たちは日系人の歩みについて熱心に聞き入った。

 

生徒たちから直接、レイミーさん(右から2番め)と 五明さん(右端)に、梱包したままの本が手渡された

 

 公立でありながらユニークな学科を設ける北海道千歳高等学校。国際教養科は道内に2校しかない英語の専門学科であり、英語担当の高椋勇一先生によると、毎週の合計授業時間30時間のうち、10時間が英語学習にあてられているという。異文化理解、英語表現、多読のクラスなど、実践的な英語力育成のためのカリキュラムが組まれている。

 同学科では毎年12月、2年生を対象に、3週間のホームステイ・プログラムを行ってきた。今年は学科生40名のうち34名の生徒が参加した。プログラム開始は2000年。当初はアメリカやオーストラリアなどを行き先としていたが、CCU(Center for Cultural Understanding)という非営利団体が提供する質の高い教育、治安の良さなどが決め手となり、8年前からは毎年カナダを訪れている。カナダの人々との交流に感謝の意を込めて、9年目の今年、200冊の古本の贈呈を決めた。

 

 今年は、メープルリッジにホームステイしながら10日間ほどの英語クラスを受講、生きた英語とカナダの文化を学ぶ。毎週水曜のトリップデーには、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)をはじめとする地元の学校を訪問したり、近郊の街を観光する。

 前年の経験を踏まえ、プログラムは毎年改良されている。今年は初めてピースアーチまで国境見学に行った。「親のありがたみを感じたり、英語学習に関するモチベーションが上がったりと、プログラムの前と後では生徒の顔つきが違うんです」。そんな言葉でプログラムの意義、プログラムを通しての生徒の成長ぶりをうれしそうに語ってくれた高椋先生。今後は、訪問した学校で地元の文化を紹介するスピーチの機会を設けたり、同校国際流通科の生徒が地元企業と組んで開発した商品の紹介なども視野に入れている。

 

 今回寄付されたのは主に童話など子供向けの本、そう教えてくれたのは上山陽生くんと伊藤航くん。ホームステイについて聞くと「難しい。言葉が通じない。授業で習う言葉と、ここで使う英語は全然違う」(上山くん)と話してくれた。「将来は、異文化と関わりたい。世界一周してみたい」という伊藤くん。「英語で世界中の人々と理解しあいたい。お互いわかり合えれば争いもなくなる」。そう話す上山くんの夢は、海上保安官になることだという。二人とも、若いながらグローバルな視点を持っているのが印象的であった。

 

 今回寄付された本は、年に5回ほど開かれる古本市や、日系センター2階にある 「古本屋さん」 に並ぶ予定。「古本屋さん」には、すでに絶版となっているお宝本や、学術的価値のある書籍、小説、漫画など、あらゆる種類の本1万冊以上がきちんとジャンル分けされ、19もの本棚にぎっしりと並ぶ。

 カナダ在住48年、古本屋さんの「大将」こと小笠原行秀さんは本好きで、以前から古本市に足を運んでいた。売り場に無造作に並べられた本が気になった小笠原さんが自ら音頭をとって本の整理に着手したのが2015年春頃。段ボール箱に詰められ、倉庫内にただ積み上げられていた2〜3万冊ほどの本を整理するのに、ボランティアの手を借りて約1年かかった。

 そして、寄付された本の有効活用とコミュニティの要望に応える形で今年5月にオープンを迎えた「古本屋さん」。以前は数軒あった日本語の本を扱う書店が全て姿を消した今、その意義は大きい。

 

 営業時間は、水曜日から金曜日が午後1時から5時、土曜日は午前10時から午後3時となっている。スタッフの小山依里さんによると、土曜日の利用者は20人程、平日はあわせて10人弱。もっとたくさんの方に利用してほしい、とのこと。売れ筋は、児童書と小説の2タイプだそうだ。特筆すべきはその値段。ジャンルを問わず、一律1冊2.5ドルで販売している。本の整理に携わるボランティアは随時募集中。圧倒的に数が少ない長期ボランティアは特に大歓迎とのことであった。

 (取材 松村由紀)

 

北海道千歳高校の生徒たち

 

生徒代表として、堂々と英語のスピーチを披露した村上衣都季(いつき)さん

 

北海道千歳高校、引率の高椋勇一先生

 

生徒の上山陽世くん(左)と伊藤航くん

 

「古本屋さん」のスタッフ小笠原行秀さん(右)と小山依里さん

 

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