2016年12月8日 第50号
想像以上に背が高く、外国人選手にも引けを取らないがっちりとした体格。はっきりとした目鼻立ち、そして覚悟を秘めた力強い眼差し。一流の選手とはこういう人を指すのかと圧倒されたのを覚えています。そんな工藤壮人選手が、試合前「今日は楽しんでね」と私に声を掛けて、握手をしてくれました。感動と緊張のあまり何を言ったのか覚えていませんが、この時の出会いは3カ月が過ぎた今でも脳裏に焼き付いています。
筆者。8月12日、BCプレース・スタジアムで。(写真撮影 斉藤光一)
忘れもしない8月12日。想像を上回る大観衆が、ホワイトキャップスのホームであるBCプレース・スタジアムに詰めかけました。そこで行われたサンノゼ・アースクエイクスとの一戦に、工藤選手は先発出場を果たしました。試合自体は1―2で敗れたものの、日本から遠く離れた異国の地で、多国籍な選手たちに囲まれながら、ひたむきにプレーする工藤選手の姿は日本人として誇らしく思いました。 チーム唯一のアジア人ということもあり、日本人だけでなく、他のアジアのファンからも声を掛けられるそうです。幸運にもお会いした時、工藤選手が私に「ここで会ったのも何かの縁だし、こういう出会いは大切にしていきたい」と言葉を掛けてくれましたが、そんな優しさも彼の人気の要因なのでしょう。
実はこの時、大学1年生の夏休みを利用してバンクーバーに語学留学をしていました。たった3週間の短い間でしたが、異国の地で経験し、そして感じたことはたくさんあります。初めての留学でしたので、慣れないことの連続でした。学校では、先生やクラスメイトがなんと言っているかわからず、勘違いして恥ずかしい思いもしました。ただの笑い声が自分を笑っているように聞こえたこともあります。友達を作るのも一苦労でしたが、さらにホームステイ先では、一家団欒の場で一人だけ会話に参加できず、そこでも孤独を感じました。最初の1週間は正直なところ、日本に帰りたいと思ったこともありました。それでも、帰国するころには、語学力も向上し、たくさんの友達もできました。この3週間、とても有意義な時間を過ごすことができました。
工藤選手ほどではありませんが、私自身も外国で言葉の壁や生活環境の違いに苦労したことで、異国の地で暮らすことの大変さが少しはわかったような気がします。チーム全員で連携して一つのゲームを作るサッカーにおいて、コミュニケーションは必要不可欠です。ホワイトキャップスには南米の選手も多いため、英語だけでなく、スペイン語も駆使しなければなりません。下部組織時代も含め15年間、柏レイソル一筋でプレーし、2015年にはクラブで歴代最多得点王になった工藤選手。『柏の神』と言われた元日本代表は、そのまま国内でプレーしていれば、異国での苦労もなかったはず。しかし、あえて厳しい環境に身を置き、自身のレベルアップを目指すために、単身カナダに乗り込んできたのです。最初に出会った時に感じた自信に満ち溢れた風格は、きっとそんな向上心から生まれてきたのでしょう。
このバンクーバーでの工藤選手との出会いを大切にして、将来世界で活躍できるように日々邁進していきたいです。
(写真撮影 古賀章太郎)