2016年10月20日 第43号
日本の美術、芸術、文芸を専門とする翻訳家のまい子・ベアさんは、茶道表千家の講師の資格も持つ。今夏、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーで茶室『SaBi Tea Arts』をオープンした。茶道の稽古の他、書道、ワークショップなども企画して日本文化を広く紹介していく予定だ。
お茶室はふすま、床の間、琵琶床(びわどこ)などが揃った本格的なつくりになっている
本格的な茶室がついにオープン
大通りに面した歩道から少し奥に入った位置にあるためか、中に入ると車の音も気にならない落ち着いた空間になっている。入居するときには何もない状態だったという前庭には、つくばいを設えた日本庭園を造成した。
まい子さんは日本で茶道を習い始め、20年以上茶道を続けている。今では年に2回日本に行って表千家同門会による講師のためのレッスンを受けてブラッシュアップも怠らない。日本文化やお茶に興味を持っているが、どこから始めたらいいのかよく分らないと思っている人に、お茶についてもっと深いところを学ぶ機会を作れたらと考え、ブリティッシュ・コロンビア大学で茶道クラブを始めた。その後、バーナビー市の日系文化センター・博物館でワークショップを開始、英語でお茶、器、茶道の歴史などを分かりやすく説明して好評を博している。茶道の稽古を自宅でも開催していたが、スペースが限られているのが物足りず、もっと本格的にできる場所を探していたという。そしてこの度、念願かなっての茶室を開く運びになった。
気軽にお茶の世界を楽しむ
現在、12人の生徒が稽古に通う。基本の所作を学ぶ初心者向けコースはグループレッスンだが、お点前を習う時は1人ずつ丁寧に指導している。当初、主に日本語を話さない人が英語でレッスンを受けにくることを想定していたが、思っていた以上に日本人の生徒さんも来ているとのこと。英語と日本語を生徒によって使い分けて稽古をつけることができるのも、どちらも流暢に話せるまい子さんならではだ。取材の日、稽古に参加していたジェズリールさんは「日本文化にもともと興味があり、茶道を始めました。茶道の作法は繰り返しが多いようでいて、常に新しいことを学べると思います」という。
『SaBi Tea Arts』では、茶道だけでなく、書道の稽古も月1回行われる。その他、華道のワークショップ、テーマを決めてお茶に関するレクチャー(英語)も予定しており、多様な日本文化の世界を紹介していく(イベントの詳細は下記ウェブサイトを参照)。器、お茶の道具、抹茶などの販売もしており、展示されている一画は小さなギャラリーの趣だ。
「『道』としての茶道というほどではなくても、もっと気軽に茶の湯の世界に触れる感覚でいらしていただければと思います」と語るまい子さん。こちらではお点前をいただく体験もできる。予約制で3人から受け付けており、薄茶、濃茶のコース、数種類の抹茶を飲み比べできるコースなどがある。忙しい日常の中、心を落ち着けてお茶を味わい、あらためて日本文化の奥深さや美しさに触れる貴重な時間を楽しみたい。
SaBi Tea Arts
住所:3675 W 16th Ave., Vancouver
電話:604-992-8617
ウェブ:www.sabiteaarts.com
(取材 大島 多紀子)
まい子・ベアさん プロフィール
1993年日本留学中に表千家の茶道を始め、翌年正式に入門。1998年にUBCアジア学部で日本古典文学・美術史専門修士課程卒業。1999年から2005年までアメリカで日本美術学芸員として勤務。現在は日本美術、芸術、文化の専門の和英翻訳家として活躍している。2008年に表千家講師の資格を取得。
お茶の道具や抹茶なども常時販売している
日本庭園を窓越しに望む
茶道の稽古の様子
まい子・ベアさん