まずは募金から
うす曇りの日曜の午後、住宅街の一角にあるウエストポイントグレー合同教会の聖堂では、2時の開演を前に出演者が最後の調整を行っていた。このチャリティーコンサートを提案したのは小牧彩子さん。日本の音大を卒業後、バンクーバーで声楽やピアノを教えながら、パシフィカ・シンガーズの一員として活動中の声楽家だ。
「大震災のニュースが入ってくる中、バンクーバーにいる自分ができることとして、まず“募金”を考えました。でも私ひとりができることはあまりにも小さすぎ、ならばほかの音楽家たちと一緒にチャリティーコンサートを開き、もっとたくさんの人たちの力をお借りしようという考えが震災のあった週末に出たのです」と話す。
週明けすぐにウエストポイントグレー合同教会に相談すると『鉄は熱い内に打て』と後押しされ、聖堂をコンサート会場として使用できるほか、当日のボランティアも提供してくれるという快い返事をもらったという。

 

さまざまな音色
司会のクリス・ジャックさんから紹介されたメゾ・ソプラノの小牧さんは、オペラ『セルセ』からのアリア『オンブラ・マイ・フ』(ヘンデル)を本間ちひろさんのピアノ伴奏で独唱。『スミレ』(モーツアルト)、『小さな空』(武満徹)のあとはアカペラで『アメージング・グレイス』を歌った。
続いて本間さんに加わったのはロス・サルヴォーサさん。UBC大学院博士課程で勉強中のふたりは並んでピアノに腰掛けると、バレエ組曲(バーバー)から時には真剣に、時には楽しそうに一緒に揺れながらワルツやタンゴを連弾した。
ギター暦45年という石川栄一さんはマイケル・マオさんとギターの二重奏で、クラシック・ギターが持つ素朴で柔らかい音色を奏でた。
 最後は着物姿の松元香壽恵さんと袴姿のケビン・オラフソンさんが筝と三味線で『六段の調』(八橋検校)を演奏。筝の二重奏で『さらし風手事』(宮城道雄)を弾き、場内に日本情緒をかもし出した。


人のつながりで出来た
コンサート
当初出演者は4人の予定だったが、演奏者の友人らが加わり全部で7人となった。
「私の友人知人、生徒さんや保護者の方々、演奏者の方たちが精力的に動いてくださり、とても助かりました。またボランティアの方なども出演者の友人などのつてで来ていただきました。すべてが“人のつながり”で出来上がったコンサートです」と小牧さん。まさに手作り感覚の温か味のあるコンサートに仕上がった。
 同教会のジャニスさんによると、この日の観客は約150人で入場料として受け取ったドネーションは約2800ドル。カナダ合同教会本部を通じて日本のパートナー団体に送られるという。会場の外ではホームメイドのベークセールが行われ、コンサートを満喫した人たちがおいしそうに頬張る姿が印象的だった。
(取材 ルイーズ阿久沢)

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