見違えるように変わっていた。わずかの5カ月の間に、一回りも二回りも大きくなっていた彼らがいた。
人間力を伸ばすための「不自由体験」を
KTC中央高等学院は、通信制高校で日本の高校卒業資格を取得しようとする人たちのサポート校。在籍者は、日本の教育システムに合わず、不登校を経験した生徒や、仕事との両立のために同校を選んだ生徒などさまざまだ。昨年9月に、同校はバンクーバーキャンパスを英語学校iTTTiバンクーバー内に開校した。家族から離れ「人と人との間で生きていく自分を考えてもらうこと」がねらいの一つだ。そして異国の不自由な環境に生徒6人が飛び込んだ。
全員の胸にある「みんなありがとう」
昨年9月の開校式や特別授業での取材時には、何か落ち着かない感じの生徒もいた。授業の途中で教室を出て行く姿もあった。
それから5カ月経った2月11日、帰国を明日に控えての修了式。生徒が一人ずつ前に立って思いを述べた。「英語が話せるようになった」「家族のありがたみを痛感した」「先生や仲間に支えられて辛い時期を乗り越えられた」。きらきらした瞳から言葉にしきれない思いがあふれていた。最後にあいさつをした秋山亮之君は言った。「みんなのこと、だんだんめっちゃかわいく思えて、一人一人にしてやれることはないかなと思うようになった」。先生は、会の前に「ハンカチを持ってくるように」とみんなに言っておくべきだったろう。指導に当たった先生たちも涙でぐしょぐしょになりながら、生徒一人一人に言葉を贈った。家族を離れ、見知らぬ海外の人たちの中で、自分がどう関わっていくか戸惑い悩んだ生徒たち。その傍らでずっと寄り添っていた人にしか語ることのできないメッセージだった。
生きる力を呼び起こして
ここで自分がどう変わったかを生徒たちはこう表現している。「周りの目を気にしなくなった」(野田大輔君)「思ったことが言えるようになった」(早川友梨さん)「自分のなりたい人間像ができた」(銀川界君)。どうしてこれほどまでに成長できたのだろうか。KTC中央高等学院の伊藤潤さんは語る。「不自由な中では人と関わりながら突破口を見出していくしかないですよね。また、言葉が不自由な分、五感をフルに使って、目をしっかり見て話すようになる。そうしたことが生きていく力、人と交わる力を呼び起こすのだと思います」。
互いの興味を刺激し合いながら、たくさんの思い出を
英語の授業、日本の高校の授業のほかに、さまざまなアクティビティを経験した彼ら。映画『トワイライトゾーン』のロケ地へ行きたいと希望する生徒のために、まず全員で映画鑑賞。それからロケ地へ。美容師志望の生徒のために、全員で美容室見学に行ったことも楽しい経験だった。
バンクーバーでのかけがえのない思い出、仲間との絆、困難を乗り越えた自信。抱えきれない宝物は、これからの彼らの人生を力強く支えてくれることだろう。
(取材 平野香利)