糸東流空手道正晃会師範の佐藤義晃氏カナダはBC州の他アルバータ州とマニトバ州、お隣アメリカからはワシントン州とオレゴン州、また南米のアルゼンチンからの参加もあり、計375人の選手が出場。世界レベルの競技者が参加する国際大会としても知られる本大会は、1999年に始まり今年で12年目を迎える。ソテロ・デリリオ、ゴジョー・モリニソ、クラウディオ・ゼリクの黒帯3名は、23時間のロングフライトをかけて遥々アルゼンチンから大会に挑んだ。バンクーバーで空手道場を始めて41年目を迎える糸東流空手道正晃会師範の佐藤義晃氏は、「試合に勝つことは稽古の一部であり、目的ではありません。勝利に向かって頑張ることが大切なのです。」と大会の抱負を語った。また、「治安がとても悪いポートエドワードの小さな村で育った私は、とにかく他の子供よりも小さくて弱く、毎日苛められていました。」と話す、糸東流空手道正晃会の幹部で本大会のオーガナイザー、アンドリアス・クンツ氏は、11歳からセルフディフェンスのために空手を習い始めてから29年という。そして「空手は自己分析、また強くもなれるけど謙虚にもなれる魅力がある。」と付け加えた。

糸東流空手道正晃会の幹部で本大会のオーガナイザー、アンドリアス・クンツ氏と男子の部グランドチャンピオン、ブライアン・パーヴェス選手

正午に行われた演武会では、佐藤師範と本部道場のスコット・チャン氏による「本物の日本刀」を使った息を呑むほど見事なデモンストレーション、また、キャンベルリバー支部のロイ・ティッペンハウアー先生とギブソン支部のダラス・グリーヴ先生による緊迫した「型とその分解」のデモンストレーションが行われ、会場から盛大な拍手が沸き起こった。糸東、剛柔、松涛館、和道、松林流等の多くの会派から参加する選手たちは、組手で鋭い気合と共に激しい突きや蹴りを次々に繰り出し、熱戦を展開。白熱した観客席、そして選手たちの先輩、仲間内からは「頑張れ、下がるな、攻めろ!」などと、試合に負けない熱い声援が飛び交った。また、技の精度や気迫を競いながらも、白鷺の舞いの如く滑らかな「型」の演武には、観客の目も心も静止状態となった。

 

<カナダで空手を頑張る日系選手たちに注目>

マスターの部グランドチャンピオン、山村純也選手と佐藤義晃師範

「忍者になりたい!」と始めた空手も今では27年目になるUBC道場の先生で黒帯の中津マイク選手は、「日々厳しい稽古をこなし、先輩を敬うことが大切。空手は、より良い自己形成のためにしています。」と話す。また、「ギャングが多いラフな地域で育ったため、セルフディフェンスとして空手がとても役に立ちました。佐藤師範との出会い、空手なくして今の自分はない。」と付け加え、「4歳になる娘の弓にも空手を教えたい。」と笑顔を残した。

空手は小学校4年生の時から始めて5年間し、2003年にカナダに来てから再びやり始めたという黒帯の羽田勉選手は、「最初は友達が格闘技を始めたのがきっかけで、負けたくなかったことから経験のある空手をすることにしました。格闘技は究極の精神状態と向き合うので、街で何が起きようと慌てることもなく、常に冷静沈着でいられるようになりました。」と話し、「空手を通して精神的に強くなれ、また、武道なので自信にもつながります。」と熱く語った。

女子の部グランドチャンピオン、リンダ・コン選手

「日本からバンクーバーに移住して、子供のために何か日本の文化を伝えたいという思いから空手を始めました。」と話す黒帯の山村純也選手には、同じく空手をする16歳の和司くんと11歳の航平くんの息子2人がいる。本大会で、16歳にしながら父親と同じ大人の部の型に挑戦した和司選手。父親の純也選手が金メダル、そして息子の和司選手が銅メダルを獲得する快挙を成した。「予想以上に健闘した和司と一緒にメダルを獲得することが出来て、とても楽しい思い出になりました。」と話す純也選手は、「ティーンなので何かに集中させることは良いこと。空手はみんなが思うほど格闘技ではなく、人との出会いや仲間との交流にもなっています。空手をしている子は礼儀正しく、良い子が多いですよ。」と親としての顔を覗かせる純也選手は、空手歴10年にして数え切れないほど多くのメダルを手にしている。息子さんたちはそんな父親を目指しているのかと聞くと、「いや、自分ではなくもっと上を目指して欲しい。」と笑顔で締めた。

高校1年生からバンクーバーに渡り、現在UBCの学生である松原善隆選手は、去年の9月に空手を始めたばかりにも関わらず、白帯の組手で銅メダルを獲得。「空手を通して自分の文化を再発見しました。また、人脈も広がり、筋トレも楽しく出来るようになりました。」と話し、「自分の通う道場では、礼儀を正しくすること、人に迷惑をかけないこと、お互いに仲良くすること、先生先輩の教えを守ること、練習は毎日することの5つのルールがあります。空手は身体だけではなく、自分を律するもので道徳的なことが学べ、日常に役立つことばかりです。今後も空手を通して成長して行きたいです。」と優しい口調で語った。

我ら日本の空手が、今や世界の空手と言っても過言ではないほど世界中に普及されている今日。幼い子供やユースの選手たちが多く見られた本大会では、日本だけではなく、ここ海外でも次の世代へと空手が受け継がれていることを痛感した。目に焼き付くほど切れの良い上段回し蹴りや、呑み込まれそうなほど緊迫した型など白熱した空手道大会を目の当たりにし、空手を始めてみたいという思いに駆られながら会場を後にした。

(取材 門利容子)

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