昨年秋、リッチモンド北部の工業地帯・ミッチェルアイランドに、ひと際目を引く青と 白が基調の建物が誕生した。『たこわさび』などの珍味で有名な、あづまフーズ・カナダの水産加工工場である。近隣は木材やオート関係の工場が連なり、食品 会社は僅か。そんな環境に新風を吹き込んだあづまフーズは、産業開発の期待のホープでもあるのだ。 乾物専門から生もの加工へ あづまフーズ株式会社(AFJ)は、1966年、現社長で宅間氏の兄である東俊順氏により、乾物食品の製造販売会社として「あづま商店」の商号で三重県 四日市市に創設された。73年に宅間氏が入社してからは、乾物のみだった自社製品を見直し、生ものを素材にした商品の開発に着手。当初は商品の9割が宅間 さんの考案したものだった。その後、83年に「あづまフーズ株式会社」を設立。着々と事業を拡大し85 年には主に乾物と菓子類の製造販売を行なう兄弟会社「タクマ食品」も立ち上げられた。そして90年、ついには米国カリフォルニア州のミルバレーにて海外進 出を果たす。常識を無視した発想の転換が、同社の成功の秘訣である。 海産資源の宝庫カナダに着目 カナダに着目したのは、政府によって厳しく漁獲高などが管理・規制されているため、海産資源の枯渇に縁遠いからだという。また、カナダの漁業そのもの が、日本へ向けたものとして成長してきたため、土壌が出来上がっていることも後押しした理由だ。カナダ工場では製造と輸出が主となる予定だが、宅間氏はコ ストパフォーマンスが良く、カナダならではの商品開発に奔走している。その一環として、最先端冷凍技術も取り込んだ。ノルウェー産に軍配が上がっているア ジアのサーモン市場で、カナダ産サーモンを推してゆくためだ。カナダの特産品と海産物の融合や、日本では珍重されているが当地では廃棄されてしまう白子の ような原料を使った『リサイクル』商品も企画している。 開発現場には日の目を見ない商品も 様々な珍味が市場に流通している今日だが、あづまフーズの商品は群を抜いてユニークなものが多い。それだけに手間がかかり、需要があるのがわかっていて も泣く泣く断念せざるを得ない場合もある。20年ほど前に、宅間氏は『夫婦白魚』という商品を考案した。結婚式場をターゲットにした前菜で、紅白に染め分 けた2匹のシラウオを結び、魚卵をまぶすというおめでたい品。取引先から「よそに流すな。全部うちで買い取る」と言われ、宅間氏は社員と一緒に手作業でシ ラウオを結ぶ作業を行なったのだが、3時間もすると全員が音を上げた。細かすぎて肩が懲り、とても続けられないのだ。結局、試作品を4箱作ったものの、取 引先には「これ以上はできない」と告げるしかなかった。 「生ものは加熱」郷に入れば郷に従え! そのように日の目を見なかった試作品のエピソードは多々あるが、それらの中からヒット商品が生まれてきた。柔軟性のある開発力は特に同社の強み。既成概念を外し、発想を広げるというのが会社理念だ。米国進出に当たっては、その経営理念が功を奏した。 日本で人気のある食品を、そのまま持っていっても現地には受け入れられない。そこで同社では、調味料で日本らしさを出すことだけは変えずに、生ものの苦手なアメリカ人に合わせた商品を新たに開発した。 『たこわさび』に茹でダコを使ったり、化学調味料を使わないNO MSG商品を作ったり、あづまフーズは現地に溶け込む努力をしていった。 カナダ工場本格デビュー間近 現在あづまフーズグループは、タクマ食品を含めた自社工場及び関連会社・施設を国内外 数カ所に持ち、その取引先は全世界に広がる。あづまフーズ株式会社(日本・AFJ)がアジアやオーストラリアまでの環太平洋地域すべてを網羅し、米国・カ リフォルニア州に基盤を置く米国あづまフーズ株式会社(AFI)は、北米・南米・欧州・ロシアを管轄。昨年には中国・上海にもオフィスを開設した。すでに 中国・青島に進出を果たしていたタクマ食品は中国に工場も持ち、あづまフーズと融通しあう。そして昨年、ついに念願のカナダ新工場ができあがった。この春 からの本格的な始動を前に、同社は3月4日には工場の一般公開及び落成記念祝賀会を催す。宅間氏の魂が込められた商品が見られるのも間近である。 (取材 藍智子)
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