水の惑星、見つかるか

タブーに挑む先端科学

 地球から遠く離れた宇宙に、生命の起源や生命体を追い求める研究が急速に進んでいる。『宇宙人探し』はSFの世界とされ、科学者が口にするのはタブー視されてきたが、望遠鏡や探査機の進歩に伴い、観測に基づく最先端科学になった。「第2の地球」といえる水をたたえた惑星の発見も夢ではなくなっている。

 

太陽系の外にある地球に似た惑星の想像図。左にあるのは太陽に相当する恒星(NASA提供)(共同)

 

 「生命を探そうという研究が本格的に始まった。天文学だけでなく生物学や化学も融合し、アストロバイオロジー(宇宙生物学)と呼ばれています」。東大の田村元秀教授(56)は説明する。

 きっかけは1995年、太陽系から50光年離れたペガスス座で恒星を回る惑星が見つかったことだ。それまでいくら探しても見つからず「太陽系の外に惑星はないのかも」という見方が広がっていたのを覆した。

 その後、見つかった惑星の数は飛躍的に増え、生命の存在に欠かせない水に満ちた惑星も現実味を帯びてきた。ただ生命といっても微生物のような生き物が想定されている。

 日本のチームは地球に似た惑星を探すため、すばる望遠鏡(米ハワイ島)に付ける新装置を作った。田村さんは「すばるで惑星を見つけ、その大気をハワイに建設する超大型望遠鏡TMTで調べる。酸素やメタンがあれば、それが生命と関係するのか生物学の専門家と確かめる」と意気込む。

 太陽系内でも水の存在を示す発見が相次ぐ。火星の地表では今も水が流れているかもしれない跡を米探査機が見つけた。

 注目を集めるのが、土星の衛星エンケラドス。表面を覆う氷の下に海がある可能性が判明した。東大などのチームは、微生物の食料になる水素が海中に作られるとみており「生命が存在できる可能性が高まった」と今後の探査に期待している。

 

史上最大宇宙に6メートルの鏡

NASAハッブル後継機

 米航空宇宙局(NASA)は、宇宙を飛ぶ望遠鏡としては世界最大のハッブル望遠鏡の後継機となるジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡(JWST)の開発を進めている。直径6・5メートルの反射鏡は史上最大。2018年に打ち上げられ、生命の誕生に適した惑星の発見が期待されている。

 JWSTは、光を集めるために六角形の鏡を18枚組み合わせ、一つの大きな反射鏡とするのが特徴。直径2・4メートルのハッブル望遠鏡の鏡と比べ面積は7倍以上となる。

 そのままではロケットに入りきらず、折り畳んで打ち上げ、宇宙で自動的に展開する。全て展開すると帆を広げた船のような形になり、船体はテニスコートほどの大きさ。機械システムを統括するNASAのジョン・ローレンスさんは「打ち上げる無人の機体としても史上最大だ」と話す。

 JWSTは、宇宙のかなたから飛んでくる赤外線を捉え、太陽系外の惑星の環境を調べることができる。惑星は自分では光を発せず観測が難しいが、背後にある恒星から惑星の大気を通過して届く赤外線を調べると、大気にどんな成分が含まれるかが分かる。水蒸気や有機物のメタンなど、生命活動に欠かせない分子の有無を調べる計画だ。

 打ち上げ後、宇宙空間での展開は15段階もある複雑な手順で、これがうまくいかないと観測ができない。「打ち上げ前に2回。それぞれ4〜5週間かけてテストする」(ローレンスさん)と万全を期す構えだ。(ワシントン共同)

 

スーパーアースが有望

NASAのクランピン博士

 ジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測チームを率いる米航空宇宙局(NASA)のマーク・クランピン博士に聞いた。

 — 宇宙での生命探しが熱を帯びている。

 「過去20年間に、太陽系外に5千個以上の惑星らしき天体が見つかり、1900個余りが惑星と確認された。多くの人は、地球と同じように生命を育むものが中にはあるはずだと考えている」

 — 急に見つかり始めたのはなぜか。

 「恒星の手前を(光を出さない)惑星が横切ると、周期的に暗くなる。これを利用して見つける『トランジット法』が開発されたためだ」

 — 生命の存在に有望な天体は。

 「ガスや氷ではなく、地球と同じ岩石質の天体で、質量は地球の数倍程度のスーパーアースが有望だ。これまでにも見つかっているが、観測のターゲットにしたい」

 — どんな望遠鏡か。

 「光を集める反射鏡の直径が6・5メートルもある。星や惑星が放出するさまざまな波長の赤外線を捉えることができ、惑星の大気にどのような分子が含まれているのかが分かる。地球に似た特徴を持つ惑星を見つけられるかもしれない」

 — 生命は見つかるか。

 「直接は見つけられないかもしれないが、将来の発見に向け有益なデータが集められるはずだ。地球でも極限と思える厳しい環境で生命は見つかっており、他の惑星で見つかる可能性はある」

 マーク・クランピン 1961年生まれ。NASAゴダード宇宙飛行センター宇宙物理科学部門長。(ワシントン共同)

 

太陽系外惑星

 太陽系の外にある恒星を回る惑星。明るい恒星のそばにあり、小さく暗いため観測が難しい。米航空宇宙局(NASA)が打ち上げたケプラー宇宙望遠鏡によって発見数が急増した。見つかりだした当初は、燃えさかる恒星のすぐ近くを猛スピードで回るものや極端な楕円軌道など、太陽系の常識とはかけ離れている惑星が多かった。近年は水が液体として存在できる軌道で、岩石でできているとみられる地球とよく似た環境の惑星も見つかってきている。

 

生命が存在できる条件

 地球以外で生き物は見つかっていないが、生命が存在できる条件としてまず挙げられるのは、水が液体としてあることだ。このほか体を構成する有機物があり、生体活動のため熱や光などのエネルギー源も必要とされる。水は生命体が誕生したり、活動を維持したりする化学反応を起こすのに必須と考えられている。宇宙空間には氷や水分子はあるが液体の条件を満たさず、天体の表面や内部が適している。天体の中でも燃えさかる恒星ではなく、惑星や衛星が有力視される。 (共同)

 

表面の氷の下に海があるとみられる土星の衛星エンケラドス(NASA提供)(共同)

 

組み立て中のジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡(NASA提供)(共同)

 

 

インタビューに答えるマーク・クランピン博士=米メリーランド州のNASAゴダード宇宙飛行センター(共同)

 

ジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡の組み立て作業を説明するジョン・ローレンスさん=米メリーランド州のNASAゴダード宇宙飛行センター(共同)

 

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