列島縦断、新たな時代に3月26日開業へ

 北海道新幹線が3月26日、いよいよ開業する。東京駅から延びる新幹線のレールは、かつて青函連絡船が行き交った津軽海峡の海底を抜け、北の大地に到達。新幹線のネットワークは北海道から九州まで日本列島を縦断する新たな時代を迎える。首都圏と直結して利便性が増す函館周辺と北海道新幹線の魅力を紹介する。

 

開業に向けて本格化している北海道新幹線「H5系」車両の訓練運転=北海道北斗市(共同)

 

計画から40年、北海道へ 貨物列車と82キロ共用区間

 新青森—新函館北斗(約149キロ)が開業し、新幹線が初めて青函トンネルを通り抜ける。整備計画決定は1973年で、40年余りかかった。64年の東海道新幹線開業から半世紀を経て、北海道から鹿児島県まで新幹線がつながる。

 北海道新幹線の最大の特徴は、青函トンネルを含む約82キロの区間で貨物列車と線路を共有すること。幅が広い新幹線用のレールを在来線用の外側に設けた3本レール方式で、自動列車制御装置(ATC)やポイントは特別仕様。貨物列車とすれ違う際の安全確保のため、この区間では新幹線の最高速度は在来線特急並みの時速140キロに抑えられる。

 東北新幹線と直通運転するのが基本。東京—新函館北斗は「はやぶさ」で最短4時間余り。新函館北斗と函館はアクセス列車で結び、東京—函館の所要時間は、新幹線と特急を乗り継ぐ現在の最短5時間22分から、約1時間短くなる。

 JR北海道は、新型車両「H5系」を導入。東北新幹線の「E5系」と同じ10両編成で、最上級車両「グランクラス」が1両ある。内装はブラインドやカーペットに雪の結晶の柄をちりばめ、北海道らしさを演出した。

 新函館北斗から先の延伸も2012年8月に着工し、新函館北斗—札幌(約211キロ)は、15年後の31年春の開業を目指している。

夜景、建築、海の幸… 異国情緒あふれる函館

 新函館北斗で新幹線を降りた乗客の多くがまず向かうのは、アクセス列車「はこだてライナー」が最短17分で結ぶ函館だ。1859年に開港した国際貿易港としての歴史が色濃く残り、イカの水揚げでも有名な港町は、美しい夜景や建築、海の幸で、国内外の観光客を引きつける。

 函館山の麓に位置する元町には、各国の領事館が置かれていた。明治・大正期の洋風建築が残り、街並みは異国情緒があふれる。石畳の坂道沿いには、函館ハリストス正教会やカトリック元町教会などの教会群と、和洋折衷の家屋が混在し、開港の歴史を感じることができる。

 標高334メートルの函館山からの夜景は必見。市街地を照らす幹線道路の光と、函館湾のいさり火で、扇形の街が美しく浮かび上がる。香港、ナポリとともに「世界三大夜景」とされ、2011年にフランスで発売された観光案内「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三つ星に輝いた。

 箱館戦争の舞台となった国特別史跡「五稜郭跡」は市民の憩いの場だ。ヨーロッパの城塞都市をモデルに設計され、1864年に完成。隣接する五稜郭タワーでは、緑に囲まれた星形の城郭を一望できるほか、ガイドツアーも人気だ。

 津軽海峡の新鮮な魚介類を味わうなら函館朝市へ。JR函館駅のすぐ近くに約280店がひしめき、季節によって函館名物のイカ、噴火湾の毛ガニ、ウニやイクラなどの海鮮丼が堪能できる。

 函館周辺も見どころは多い。函館から車で約1時間半、ニシン漁や北前船交易で栄えた江差町は江戸末期の商家が残り、街道を散策できる。毎年8月、3日間にわたって開かれる「姥神大神宮渡御祭」は北海道最古の祭りとされ、あでやかな山車が練り歩く。北海道最南端の松前町は、日本屈指の花見の名所で、約250種類、1万本以上の桜が咲き誇る松前城周辺は、シーズンになると大勢の見物客でにぎわう。

豪華寝台に「ドラえもん」 青函トンネル通った列車

 豪華寝台列車に「ドラえもん」、JR最後の急行…。1988年3月13日の青函トンネル開業以来、多くの列車が本州と北海道を結んだ。北海道新幹線開業により、旅客列車は新幹線のみとなり、他は姿を消す。

 青函トンネルを最初に通ったのは、盛岡—函館の特急「はつかり」だ。青森—函館は快速「海峡」が走り、青函連絡船で約4時間かかった両駅間は、約2時間半に短縮された。98年には青函トンネル開業10周年を記念し、車体に人気漫画「ドラえもん」のキャラクターが描かれた「ドラえもん海底列車」も登場した。

 東北新幹線が八戸に延伸した2002年12月、はつかりと海峡に代わって八戸—函館の特急「白鳥」「スーパー白鳥」が投入された。10年に新幹線が新青森まで延びると、運転区間は新青森—函館となり、北海道新幹線の開業により、ついに『白鳥』は消える。

 ブルートレインも通過した。大阪—函館を走った寝台特急「日本海」、上野—札幌の同「北斗星」は青函トンネル開業時に運行を開始。89年には豪華車両が話題となった大阪—札幌の寝台特急「トワイライトエクスプレス」がデビューした。

 JR最後の急行「はまなす」(青森—札幌)と寝台特急「カシオペア」(上野—札幌)は現在も運行中だが、青函トンネル内の運行システムや電圧が新幹線仕様になり、従来の電気機関車が使えなくなるため3月で廃止となる。

 「鉄道友の会」北海道支部長の松居国男さん(74)は「ついに北海道に新幹線が来るという感慨とともに、なじみある列車たちが引退していく寂しさもある。『長い間ごくろうさま』と声をかけたい」と話した。

もう「はるばる」じゃない 地元出身の北島三郎さん

 北海道知内町出身の歌手、北島三郎さん(79)に、北海道新幹線開業への期待と故郷への思いを聞いた。

 「はるばるきたぜ 函館へ」はやめなきゃいけないよね。新幹線なら「あっという間にきたぜ(函館へ)」だ。昔は函館から東京まで、青函連絡船と汽車を乗り継いで半日以上かかったんだから。

 思い出すなぁ。高校3年間、朝5時の汽車で1時間半かけて函館まで通学する俺のために、おふくろは弁当を朝と昼の二つ持たせてくれた。高校卒業後、歌手を夢見て上京する時には、3月の雪が舞う中、おやじが紙テープを引いて青函連絡船を見送ってくれた。

 津軽海峡には覚悟して渡らなきゃいけない厳しさがあった。歌手になれなかったら戻ることはできない、というくらいの。そこに海底トンネルができ、新幹線が走るなんて、おやじとおふくろは思ってもみなかったでしょう。

 知内町は、青森から青函トンネルを抜けて出てきたところなんです。トンネルがつながった時は、うれしかった。感動でいっぱいだったね。

 昔の函館は駅に降りると、もうイカの臭いがくせえの。あれが函館の臭いだった。ストーブでイカを焼きながら乗った汽車が、今じゃ新幹線に。そんな時代まで生きていられて良かったな。

 北海道のおいしい食べ物と、道産子の人情味のある人柄が大好き。函館には朝市、赤レンガ、五稜郭公園など、歴史と伝統のある場所がたくさんある。函館山から見る夜景、いさり火は、たまらなくいいぞ。何十年たっても自慢に思える故郷だね。「そんなすてきな北海道、函館にぜひとも新幹線でいらっしゃい」って、俺は大きい声で言いたいな。(共同)

 

北海道新幹線の最上級車両「グランクラス」の車内(共同)

 

 

 

「函館に新幹線でいらっしゃい」と笑顔で語る北島三郎さん(共同)

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