海外で和食といえば、日本食レストランが一般的だが、一般家庭でも手軽に和食を楽しんでもらいたいと、農林水産省主催の手巻きずし体験講座が開催された。

11月8日、会場となったバーナビー市日系文化センター・博物館では、1回約1時間半の講座を2回開催。講師は、バンクーバー市内ホテル、フェアモント・パシフィックリム・バンクーバーのすしシェフ、近江隆之さん。プロから直々にすし作りを無料で学べるとあって、2回の講座で50人の定員に応募者約500人が殺到。バンクーバーでの和食への関心の高さを垣間見せた。

手巻きずし作りに合わせて、吸い物や日本茶も紹介。すしに合う日本茶をCHADO Tea Houseの嶌野扶美さんが説明し、この日は、緑茶とほうじ茶がふるまわれた。

 

近江シェフは「日本の米、酢、海苔の美味しさも知ってもらいたい」と材料選びの大切さも説明していた

 

家族ですし作りに挑戦

 参加者は子供と一緒の家族連れが多く、近江シェフの説明に聞き入りながら、楽しそうに手巻きずし作りに挑戦していた。各自3種類の手巻きに挑戦。すし飯や材料はすでに用意されていて、シェフの説明に沿って、すし飯と具材をうまく海苔で巻いていく作業に専念した。

 出来上がった手巻きずしはどれもなかなかのもの。それぞれに自分の出来に満足そうに笑みを浮かべながら、かぶりつく前に嬉しそうに写真に収めていた。

 家族で参加していたエアリーン・ロジャーズさんは、「面白かった。家でよく作っているけど、シェフの話を聞いてみたかった」と参加理由を語り、「家でまた作る時は前よりうまく作れるようになっていると思う」と笑った。

 講座ではすし作りに欠かせない材料の米や酢、海苔、また、すし飯の作り方、日本の炊飯器の使用方法なども丁寧に説明。ロジャーズさんは、「日本の炊飯器も買おうかな」と笑った。

 

和食の魅力を余すところなく

 講座は近江シェフの軽快で分かりやすい「和食の魅力」の説明から始まった。今回の講座は、和食とはどういうものか、その背景にある日本の食文化、さらには、和食を育んだ日本文化にも触れ、日本の自然と大きく結びついた食に関する日本人の考え方、いただきますの意味など、単なるすし作り体験だけではない、和食の魅力について伝えることも目的の一つだった。

 今回は農林水産省の代理として、食文化発信活動などを手掛けているアサツーDKから担当者が来加。その一人、上田倫史さんは、今回の講座開催の趣旨について、農林水産物輸出促進を視野に入れた日本の食文化の発信と説明した。

 「和食」が2013年にユネスコ無形文化遺産に登録され、国外でますます注目されるようになり、世界的な日本食ブームの広がりに乗じて、積極的に和食の豊かさと日本の農産物の高品質さを発信していくことを目的としている。

 この講座は、世界5都市で開催され、バンクーバーは2回目。前回はスペインのバルセロナで、この後は、デンマークのコペンハーゲン、マレーシアのクアラルンプール、シアトルを回る予定という。

 手巻きずしにしたのは、魅力的で比較的簡単にできるから。バンクーバーでの反応は、「非常に熱心で、メモを取りながら説明を聞いている人もいて」と上々だったと語った。

 講師を務めた近江シェフは、同センターで定期的に料理教室の講師も務めている。今回は、「おすし屋みたいな手巻きの巻き方を伝えることを心がけました。今日学んでもらったテクニックを家でも実践してもらえれば」と語った。「おしゃべりが好きなので」と近江シェフ。仕事でも客との話に夢中になると笑う。参加者の質問にも気軽に応じ、プロの手巻きを伝授していた。

 日本の「食文化」を手巻きずし体験に込めた今回の講座。「次回があるのか」と何度も聞かれるほど、バンクーバーでは大成功に終わった。

(取材 三島直美)

 

手巻きずし作りに没頭する参加者

 

会場の様子。前方、近江シェフの上には大きな鏡が設置され、手元がよく見えるようになっている

 

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