キングスウェイと12番通りのKo Vocal Studio を初めて訪れたヒロコさん。ボイストレーニングも初めてのことだ。「歌っていてもちゃんと声が周りに届かないんです」「じゃあまず、『あ』で声を出してみましょうか」コウイチさんの弾くピアノに合わせて軽く声出しが始まった。「小さいホールより大きいホールの方が音が響きますよね。そんな感じでまず口の中の空間が広がる母音を使って声を出していきましょうね」
ソフトな雰囲気の中、リラックスして歌える
柔らかい光が差し込むスタジオでボーカルレッスンを行う中村興一さん。仲間と結成したバンド活動の中で「自分の思い通りに歌えたら」とボーカルレッスンを受けたことが講師の道につながった。現在はアメリカに拠点を持つボイストレーナー協会「インスティチュート・フォー・ボーカル・アドバンスメント」の認定講師だ。
プロのためのもの、というイメージのボーカルレッスンだが「どんな人でも気軽に受けられますよ」とコウイチさんは語る。
● 受講者からはどんなリクエストがありますか?
ヒロコさんのように届く声が出るようにとか、息っぽさをなくしたい、音程をなんとかしたい、強い高音を出せるようにといった希望などがありますね。
● どのようにトレーニングを行っていくのですか?
まず始めは「あ」の母音のスケールで半音ずつ音を上げていってその人の声を診断していきます。チェスト(胸)への響きが少ない、力の抜けたような声の人には、広い母音を使ってまず低音を強化していきます。力みのある発声や高音で音が下がり気味の傾向にある人には、最初はファニーボイスを使って声を薄く伸ばしていきます。そのように一人一人の声の特徴に合わせたエクササイズで、その方の思い描く歌声に近づくように発声を矯正していきます。実はきちんとした発声ができるようになると自然に音程も安定してくるんです。
● レッスン中に「ヒロコさんはライトチェストのタイプですね」と伝えていましたが。
大まかなタイプがあって、チェストへの響きが薄い「ライトチェスト」や、地声を持ち上げている「プルチェスト」、声がひっくり返ってしまう「フリップ」などがあります。そして低音から高音の切り替えが滑らかかどうかなどを最初は見ているんです。
● クラシックやポップスなどジャンルにかかわらず有効なトレーニングですか?
僕が行っている基本的なトレーニングは、どのジャンルの人にも有効ですが、分野ごとに好まれる声質がありますので生徒さんのジャンルと声の特性にそってレッスンを進めていきます。
体験レッスンの終わりまでにヒロコさんの歌声は、最初のやや弱い印象から芯のある響く音が含まれるようになっていた。レッスン後のヒロコさんの感想は——「人前で歌うのって恥ずかしいですけど、コウイチさんの前だと緊張せずに声を出せました」。トレーニングを続けている受講生のKさんにも話を聞くと「レッスン中に自分の声の変化がすぐにわかるのが快感です。 先生は的確に診断されて実践的なトレーニング方法もご存知なので、いつも納得しながら練習が進められます」。またKさんは、自分がフォーカスしている点に集中して指導してもらえることもうれしいと語ってくれた。見学していた記者にはレッスンでありながら、受講者とコウイチさんがミュージックセッションをしているような印象も。そんな軽やかで心地よい空気がスタジオに流れていた。
(取材 平野香利/写真撮影 Ms.Mikako Chiba)
KO VOCAL STUDIO
中村興一さん
京都出身。中学卒業後、ビクトリアの高校・大学に進学。留学当初に心の支えとなった歌の力を実感し、大学で心理学を学ぶ傍ら、音楽療法も履修。バンド活動から音楽にのめりこむ。バンクーバーでの生活は6年目に突入した。
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(取材 三島直美)
「歌の好きな人なら誰でも」とコウイチさん