Tetsuro Shigematsuさん

Siggy (シギー)こと、テツロウ・シゲマツさんは数々の日系イベントに登場して周りを明るくしてくれる。しかし彼の本業はMCではない。脚本家、新聞コラムニスト、ラジオのパーソナリティー、映画監督、俳優、コメディアンなど広範囲にわたって知られている、カナダを代表する日系人のタレントである。バンクーバーで公演が予定されている『Empire of the Son』の準備中のテツロウさんに話を聞いた。

 

公演ポスター©2015 Empire of the Son

 

父とのつながり

 『Empire of the Son』では父、息子、兄弟など家族の関係を描く。テツロウさんは自分の父との実際の関係を脚本に書いたので、ごく自然に演じられると語った。ロンドンからカナダに移り住んだテツロウさんの一家。父も以前はラジオのパーソナリティーだった。世代、価値観、言葉も違う親子関係。特に日本育ちのお父さんとカナダ育ちのテツロウさんの言葉のバリアは、二人のコミュニケーションをさらに難しくした。ロンドンで育ったテツロウさんは、これまでカナダ風に「I love you」と普通に言えなかったという。しかし二人の性格は同じ。やはり血が流れていると感じることも多かったそうだ。

 インタビューの日、テツロウさんのお父さんが亡くなった。仕事は全てキャンセルしたそうだが、バンクーバー新報のインタビューだけを残してくれていた。「こういう時だから何かしたい。今は演技ではなく本当に悲しいからね」。そして、しばらく間をおいて「でも皮肉にも本当の出来事を体験するということは俳優にとって良いことなんだ。演技ではなく正直な気持ちを伝えられる」と話し「でも2日前、父に『調子どう?』って聞いたら『いい気分だよ』って。その時『ダディ、大好きだよ』って言っておけばよかった」と悔やむ。今回の公演は特に父に見せたかった作品だ。「脚本を少し変える」と話すテツロウさんに、生涯において忘れられない公演にしたいという意気込みが伝わってきた。

 

オールラウンドなテツロウさん

 テツロウさんのYoutubeのチャンネルはCNNでも取り上げられたほど有名。おすすめを尋ねると「とんでもない」と答え「どれもバカげているから」と謙遜する。しかしある日、サタデー・ナイト・ライブ風のCBC番組『The Hour Has 22 Minutes』で「日系カナダ人」をパロディーにしたコメディーの依頼がきた。誰もが知っているディヴィッド・スズキさんのパロディーを思いついたものの、彼はサイエンティストで「完璧にノーマル」な人物。悩んだ末に、割り箸やサーモン寿司と環境問題をかけた爆笑コメディーが生まれた。ディヴィッド・スズキさんは以前「ラジオ番組を聴いているよ」と優しく声をかけてくれたことがあるそうだが、このパロディーについては「ディヴィッドさん、きっと知らないと思う。その方がいい」と笑わせてくれた。

 監督としては、初の長編映画『Yellow Fellas』で賞をとり、モントリオール・ファンタジア映画祭で来場記録数を破った。またラジオ『The Roundup』のホスト、新聞『Huffington Post』のコラムニストとしても有名だが、俳優としてカナダで一番知られているのはおそらくTV『Deadliest Warrior』でのサムライ役だろう。日本人男性=サムライ。このステレオタイプに答えるため、マーシャルアートができないと役が回ってこない時期もあった。

 『Empire of the Son』は実際の声のテープ、カメラ、ミニチュア、プロジェクターなどを交え、シネマの世界と舞台を結びつけたような不思議な作品。プロデューサーのドナ・ヤマモトさん他、多数のクルーに支えられている。「ぜひ観に来てください」と語るテツロウさん。面白くて痛烈、そしてアーティスティックな舞台は大いに期待できそうだ。  

テツロウさんのホームページ

http://www.shiggy.com

『Empire of the Son』の公演

10月6日(火)〜17日(土) (公演後のQ&Aは10月の8、11、13日)

場所:Vancity Culture Lab at the Cultch (1895 Venables Street, Vancouver)

チケットはThe Clutch's Box Office か オンライン thecultch.comで購入。$25〜。       

 

(取材 Jenna Park)

 

舞台裏の楽屋にて©2015 Empire of the Son

 

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