カナダ準々決勝で敗退、イギリスに惜敗
カナダの夢が潰えた。「地元開催で優勝を」と臨んだ今大会だったが、準々決勝で姿を消した。1次リーグと決勝トーナメント1回戦を苦しみながらも、1試合も落とすことなくここまで勝ち上がってきた。会場を埋め尽くす満員のファンを味方に付けながら辛勝を重ねてきた。しかし今大会初の黒星は、大会に終わりを告げるほろ苦い敗戦となった。
この日のカナダ先発イレブン
「全力を尽くしたが及ばなかった」
今大会では最もいい内容だった。ボール保持率も、シュート数も、イギリスを上回っていた。前半から積極的にゴールを狙い、シュートを放った。これまで4試合で1PK(ペナルティーキック)を含む3得点と得点力不足の批判を蹴散らすように攻めていった。
試合開始早々の8分。完全フリーになったFW(フォワード)タンクレディの放ったシュートはわずかに上に外れ、先制はならなかった。これが入っていれば、展開は全く違った。
そしてその3分後。悪夢は訪れた。DF(ディフェンダー)セセルマンのクリアミスをイギリスFWテイラーが拾い、DFチャップマン、DFブッチャナンをかわしてシュート。GK(ゴールキーパー)マックリードの反応も及ばす先制点を許した。そのわずか3分後、イギリスはFK(フリーキック)から頭で合わせたDFブロンズの緩いシュートがネットに吸い込まれ2点目。3分間に2失点。ここまで4試合で1失点とカナダを支えていたディフェンスが崩され、圧倒的に不利な状況に立たされた。
ハードマン監督は、セセルマンのミスはミスとして、「(あの瞬間)彼女がどんな思いだったか想像に難くない」と気遣い、ミスした後に心折れずに最後まで全力を尽くして戦ったと、責めることはしなかった。キャプテンFWシンクレアも、「このディフェンス陣がいたからこそ、ここまで来られた」とチームメートをかばった。
「あの早い段階で2ー0とリードされるとは思っていなかった」と監督、それでもあきらめることなく「カナダスピリットを見せた」と選手たちを称賛した。シンクレアは「ワールドカップの準々決勝という高いレベルでの戦いで2ー0を跳ね返すのは至難の業だった。でも、あそこから立ち直った自分たち自身に誇りを持ちたい」と静かで落ち着いたいつもの口調で、時々小さな笑みをみせながら語った。
監督は「まずはファンに感謝したい」と、どの会場でも熱い声援を送ったカナダファンに感謝。「自分たちの今のベストは見せられたと思う。ただ、自分たちのベストが勝利に結びつかなかった」と総括した。
夢の続き
エースとして15年カナダを引っ張ってきたFWシンクレアにとって、地元開催のW杯はどうしても優勝したい大会だった。32歳の彼女にとって、これが最後のカナダ代表になるかもしれない。そんな声も聞こえていた。
試合後、これが最後の代表かと聞かれると「たぶん違う」と小さく答えた。来年にはリオ五輪が控えている。次の国際舞台はすぐそこだ。
しかし、その前にこの日の敗戦の悔しさを呑み込んだ。「こんな形でワールドカップが終わるとは思っていなかった」とショックを隠し切れない様子で、質問に応えるたびに、小さく溜め息をつきながら感情を抑えていた。時々笑顔を見せる努力が痛々しかった。
ハードマン監督は「試合後、クリスティーンが 『Sorry』と言ってきた」と語った。「彼女が謝る必要は何一つない。今日もまた一つ伝説を塗り替えた。チームが必要とする時に必ず期待に応えてくれる」。それがエース、シンクレアだ。
この日も前半終了間際、ゴールを決めた。今大会前までの国際大会ゴール数は155。チームに、ファンに、そのあきらめない強さを見せた。前半の折り返しで、2ー0と2ー1では全く違う。満員のファンの前でプライドは見せられた。ただ「結果が残念だった」。
準々決勝で敗退はしたものの、夢がここで終わるわけではない。2019年フランス大会での出場もあるかと聞かれると、小さく笑って 「Absolutely」と答えた。
「今はショックで、明日何をするかさえ考えられない」と笑みを見せたが、赤く充血した瞳の先に、「Absolutely」の答えが真実であることを期待したい。
パンナム、そして、リオへ
「カナダが世代交代期に大会を迎えることは分かっていたが、それを言い訳にはできない」とハードマン監督は語った。チームの過渡期と女子サッカー世界最高峰の地元開催が重なったことは、不運でもあり、幸運でもあった。
チームは第1戦から得点力不足に悩まされた。シンクレアが完全に封殺されると、なかなか点が取れなかった。ロンドン五輪で6得点のシンクレアも、今大会は準々決勝の1点と中国戦のPKを含めて2得点。カナダがわずか3得点で準々決勝まで這い上がってきたのは奇跡に近い。
一方、若い伸び盛りの選手が世界最高峰の大会で地元開催を経験できたのは、大きな財産となったはずだ。5万人という大観衆の声援を受け、厳しい試合を乗り切った経験は大きい。
「若い選手も育っている」とハードマン監督。FWフレミング、MF(ミッドフィルダー)ローレンス、DFブッチャナンの名前をあげ、7月10日からトロントで開催されるパン・アメリカン大会へ期待を寄せた。その先には来年のリオ五輪がある。「ジョン(ハーデマン監督)の下で若い選手が育っている」とシンクレア。「カナダ女子サッカーの将来は明るい」と笑った。
監督は今大会の経験を教訓に、これからオリンピックに向け、カナダをどういうチームにしていくのか「パンナムで少し見せられるのではないか」と若い力に期待した。
今大会で引退する選手もいる。これまでカナダはシンクレアの得点力を中心に、フィジカルなチームとして戦ってきた。イギリス戦でも、両チーム一歩も引かないフィジカル戦が90分間続いた。しかし、今後もこのままのスタイルを貫いていけるわけではない。シンクレアのような稀有な才能を持った選手が現れる可能性は少ない。カナダがこれからどういうスタイルのチームを作っていくのか、パンナム、リオ五輪、そしてその次のW杯フランス大会へと、ここからが厳しい道のりとなる。
日本・オーストラリア戦
バンクーバーでも熱狂 同日エドモントンで行われた日本対オーストラリアの試合は、1ー0で日本が勝利。準決勝に進んだ。
バンクーバーのFIFAファンゾーンで行われたパブリック・ビューイングでは、多くのなでしこファンが集まり、緊迫した試合に一喜一憂。87分にFW岩渕のゴールが決まると大歓声が上がった。勝利の瞬間、日の丸が揺れ、「ニッポン」コール。バンクーバーでも大いに盛り上がっていた。
6月27日試合結果
日本 1ー0 オーストラリア (エドモントン:19,814)
カナダ 0ー1 イギリス (BCプレース:54,027)
スイス戦までの4試合でわずか1失点だったGKマックリード。この日はスーパーセーブを見せるも2失点と力及ばなかった
スイス戦に続き、この日もサイドバックに入ったDFウィルキンソン
痛恨のクリアミスでイギリスに先制点のきっかけを作ったDFセセルマン。しかし、最後まで戦い抜いた
試合終了後、ファンに手をあげ感謝を表すカナダ代表
選手と握手するハードマン監督(中央)。2011年からチームを率い、ロンドン五輪では銅メダルを獲得しただけに今大会の期待が大きかった
イギリスの勝利が決まった瞬間、喜ぶイギリス選手(右側)と崩れ落ちるカナダ選手。左から、DFブッチャナン、FWシンクレア、MFローレンス
予想通りのフィジカルな戦いとなった。左から、FWタンクレディ、イギリスMFチャップマン、DFセセルマン(中央下)、MFシュミッド(中央上)、DFチャップマン
ヘディングでかわすDFチャップマン。今大会最もハードに戦った選手とハードマン監督が称えた
前半終了間際にゴールした後のFWシンクレア。笑顔はなかった
若手ホープと監督が名前をあげたMFローレンス(右)。左は、この日Player of the Matchに選ばれたイギリスのキャプテンDFヒュートン
イギリスのフィジカルなディフェンスをかわそうとするFWベランジェ
国歌斉唱の前に笑顔を見せるキャプテン・シンクレアとGKマックリード
GO CANADA GO!!
(取材 三島直美 Photo by Sam Maruyama)