第68回カンヌ国際映画祭開幕   前編

〜太陽がいっぱい〜

 

フランスの高速道路を抜けてカンヌへ向かうと、もうそこはリゾート。オレンジ色の建物をぬっていくと目の前に俳優アラン•ドロンが描かれた壁を見つけた。映画『太陽がいっぱい』の舞台となったこの街の海は本当に青く、空の色と不思議なくらいマッチしている。世界で最も注目されるカンヌ国際映画祭は、今年5月13日から24日まで開催されている。今回はこのカンヌの街と映画祭の様子を2回に分けてお伝えしたい。

 

カンヌ国際映画祭会場

カンヌ祭会場周辺

 

 フランス人は外見にこだわる民族なのか、この街はリゾート地でありながらドレスアップした服装の人が多い。カナダのようにショートパンツにサンダルというような格好では歩けない。また避暑地なのに帽子をかぶらないのもフランス人の特徴。あるフランス人女性は「帽子をかぶるのはアメリカ人だけよ」と言った。きれいな髪にサングラス、お化粧もきちんとしている人が多いので、誰が本物のセレブ(有名人)か区別しにくい場合もある。大物セレブはホテル、コーヒーショップなどあらゆる場所に出現し、堂々と『プライベート』の時間を満喫している。日本からきた監督や女優たちも、街で人込みに混じってショッピングをしていた。一日中サングラスをしていても目立たないこの街の雰囲気が彼らを魅了しているようだ。

 今回の映画祭は、テロ対策のため、とにかくセキュリティーが厳しい。あるプレス・コンフェレンスに入ろうとした2人のハリウッド女優のうち、一人はリストにないと入場を断られた。「私を誰だと思っているの?」「知りません、どなたですか?」「女優です」「どの監督の、どの映画の女優ですか?」というようなやりとり。顔色一つ変えないガードマンの態度に周りも苦笑する。結局外で待たされた女優は「もう大変だったんだから」と後で話していた。セレブたちはその日の会議が終わるとホテルへ直行し自由に遊んで、あとはレッドカーペットというパターンが多い。携帯電話で申し込むパリまでのプライベートの飛行機、ニース空港からカンヌまでの送迎ヘリコプターなど贅沢なサービスもある。

 レッドカーペットは毎晩行われるので、女優は毎回ドレスを変えて自分を売り込める。今年もシャーリーズ・セロン、エマ・ストーン、ソフィー・マルソー、ジョージ・クルーニーなど、開幕と同時に人気俳優が勢揃いした。またシャネル、ディオール、グッチなど各デザイナーのドレスとアクセサリー競争もカンヌは別格である。取材するテレビ局とカメラマンの服装でさえ、タキシードに蝶ネクタイかドレスという規定がある。一方で、レッドカーペットが苦手な監督やセレブは、横の一般用の階段から入る。映画も招待制が多く、上映中鑑賞しているセレブの写真撮影は一切禁止である。

 映画祭会場の横は港があり、見事なスーパー・ヨットが並んでいる。毎年ほぼ同じ場所に泊まっているビリオネアたちは、大物セレブを招待し、信じられないような豪華パーティーを催す。毎日朝から晩まで18時間働き、チップだけでも週に5000ドル以上もあるという夢のようなクルーメンバーたちは、ヨットの中の秘密を一切漏らさない。しかし多額なお金と引き換えに時間と心理的な不自由さに長続きせず退職も多いそうだ。ちなみに一番大きなボートの持ち主はアブダビからの大富豪。ヨットの一行はカンヌの後、F1のためにモナコへ移動するそうだ。一般人から程遠いステータス・ゲームの世界は面白い。

 今年の日本映画は、是枝裕和監督の『海街diary』がコンペティション部門に、河瀬直美監督の『あん』と黒沢清監督の『岸辺の旅』がある視点部門にダブルでノミネートされている。他に俳優として渡辺謙さん、妻夫木聡さんらが外国映画に出演している。授賞式は、現地時間の24日なので期待したい。

 

カンヌ祭の審査員©FDC/Thomas Leibreich

『海街diary』の是枝監督と女優たち©FDC/Ian Gavan

フォトコールのシャーリーズ・セロン©FDC/Cryil Duchene

ウッディ・アレン監督と女優たち©GettyImages/Dominique Charriau WireImage

『岸辺の旅』の黒沢清監督、深津絵里さん、浅野忠信さん©AFP-Valery Hache

 

(取材 ジェナ・パーク)

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