「わもん」バンクーバーワークショップ
〜声の音を聞き、信じきることの力を見せつけた熱い2時間〜
10月28日夜、BCプレースは、なでしこジャパンとカナダチームとによる親善試合に沸いていた。しかし「わもん」の会場リステルバンクーバーホテルにも、それに匹敵する熱気があった。
不安が生まれる隙を与えぬ圧倒的な気迫と信頼で相手に語りかける藪原秀樹さん
聞く事に重きをおいた「わもん」
「話を聞く」「話し、聞く」という行為を追求し、円滑に平和で創造性豊かな会話を実現するためのコミュニケーションの姿勢と方法として、藪原秀樹さんが提唱している「わもん(話聞)」。講師の藪原さん、通称やぶちゃんの語り口は熱い。半端じゃない勢いでこう語る。人は普通言葉を通してコミュニケーションを行うが、聞き手は自分の価値観でその言葉を解釈する。価値観が違えば語り手の意図とは別の解釈となり、時には争いにまで発展する。しかし人が伝えたいことの大半は、言葉ではなくて声の音の成分の中に含まれているのではないか。音の高低や速さ、音色、そして呼吸の仕方からも人の思いが伝わってくる。そうした音や息づかいを聞こう。それが「わもん」実践の入り口だと。
聞くに徹する体験
講習会に集まった約50人の参加者は、二人一組になって話し手の音を聞く練習に臨んだ。
しかしただ話し、聞くのではない。話し手は言葉をきちんと発するのではなく、ハミングする音だけで言いたいことを発声。聞き手はその音をまねて同じ音調やリズムでハミングする。そのため話す内容はまったくわからない。しかし聞きながら一緒にハミングすることで、話し手と一体化できるだけでなく、聞き手は頭の中に雑念が浮かぶことなく音へ継続的に集中できる。この新鮮な体験に参加者は興奮気味だった。
ハミングの音がぴったり合ったペアの2人がその様子を披露
2人の対話を深いところでサポートするセッション
講演会中、ある体験が紹介された。語ったのは講演会前日に夫婦で藪原さんから対話のセッション「壁打ちわもん」を受けたという女性。何気ないことを自分が語ると、藪原さんがぐっと自分の気持ちに踏み込んで、決して夫に言うつもりはなかった思いを言葉にして夫へ伝えてしまった。それに対して夫が自分への思いを語ると、やはり藪原さんは普段夫から聞いたことのない思いを自分に伝えてきたという。「普段は仲がいいのに、こんなことを言い合ってしまっては夫婦の危機」と女性は対話の途中で大いに焦ったそうだが、藪原さんを介した対話の結果、より深いところで夫婦の絆が結ばれる結果になったと語った。
講習の最後には参加者で別の夫婦をモデルに、その場で藪原さんの仲介を入れた「壁打ちわもん」セッションが行われた。じっと見守る参加者たちの前で、夫婦の奥深い心の交流が確かに生まれ、会場中に温かいものが満ち満ちた。「ワークショップが進むにつれて会場全体の聞く力が高まってきたようだった」(参加した学生の感想)。
信頼と傾聴によって生まれる無限の可能性
「どうしてわかるのか」と驚くほどに人の心の奥底の言葉を聞き出す藪原さん。もともと藪原さんは西洋、東洋の哲学を学び、会社経営の経験を経て企業の営業支援に携わっていた。その活動の中で信頼と尊敬の思いをベースに人間関係を築き、人の潜在能力を引き出すコミュニケーションを探求。相手に絶対の信頼を寄せ、相手にぴったり寄り添い、相手の思いをしっかり聞き取る姿勢を続けるうちに、心の奥底の声を引き出す力を身に付けたのだ。この日の最後の対話セッションも、「昨年ならば、あの短時間で言葉を引き出せたかはわかりません」という。聞く力は日に日に進化している。
自分の内なる声を聞き、自己修養にもつながっていく「わもん」。現在、藪原さんの活動は個人、小中高の学校、企業に及ぶ。日本全国ツアーの実施、そしてワールドツアーで訪れたバンクーバーにもたらしたのは感動の体験と無限の可能性だった。
日加商工会議所のサミー高橋さん(写真左)とサニー・チャンさん(写真右)が挨拶と進行を担当
(取材 平野香利)