カナダの脚本家・俳優のインス・チョイさん
昨年バンクーバーのブロードウェー、Arts Clubで大好評だった「Kim’s Convenience」は2011年よりトロント・フリンジフェスティバルの「ベスト・ニュー・プレイ」など数々の賞を受賞している。脚本家インス・チョイさんは、俳優でもあることから国内にファンが多い。また日系人の妻をもち、トロント・日系コミュニティーセンター主催の東日本大震災支援ステージで「冬のソナタ」を歌ったエピソードもある。今回、新作「Subway Stations of the Cross」のバンクーバー公演に向けて準備中のインスさんにお話を伺った。
気さくに話してくれるインス・チョイさん
俳優時代から結婚まで
インスさんは、ヨーク大学の演劇学部・俳優科を卒業している。白人以外の俳優は彼一人だけだったが、人種に関係なくシェークスピアなどいろいろな役を演じていた。しかし卒業後、当時のアジア系俳優にはステレオタイプの小さな脇役しか回って来なかった。オーデションを受けても主役になれない、またよほど有名な俳優でない限り力もないと痛感した。それならば自分で脚本を書こうと思った。そんな彼の前に日系女性まりさんが現れた。
素敵な女性で一目見て気になったという。しかし彼女には付き合っている人がいたので特に話をしなかった。ある日友人の結婚式で、ウエディングケーキを作ったまりさんに彼氏がいないと知る。「今この機会を逃したら終わりだ」と手にしていたワインを飲み干し、ドキドキしながら話かけた。二人で座って何時間も話し、気がついたらリセプションで二人だけになっていた。それは「夢から覚めたみたいだった」そうだ。
その後すぐ自分の出演している公演にまりさんを招待した。舞台に立つと彼女が見えたという。「がんばらなければ」と自分を奮い立たせた。
日本と韓国—植民地時代、日本名が義務づけられた時代の父に最初まりさんがどう受け止められるか心配したという。まりさんを先に自宅に招待して楽しく過ごしてから打ち明けた。結婚の話になると「彼女のご両親に会いたい」と父が言った。剣道をしていたまりさんの父を含む両親同士は意気投合し、結婚もスムーズだった。むしろ父は定収入のない息子、インスさんを叱ったという。車もなく、男としてまりさんを大切にしてやっていないと。
「当時ほんとうにお金がなく、はっきり言って貧乏だった。だからいつも二人で歩いた」とインスさんは静かに語る。まりさんはそんな彼に文句を言わず、むしろ二人で話ながら食料品の買い出しに行くのを楽しみにしているようだった。「今から思えばこれが僕達二人のコミュニケーションだった。二人にとって最も素晴らしい会話と真のパートナーシップがここから生まれたんだ。40分も歩くといろいろな人生計画がたてられるからね」とインスさんは振りかえる。そして脚本家として徐々に認められると、主役もできるようになった。来年3月は結婚10周年記念。現在娘と息子との4人暮らし。もちろん車も持っているが二人共今でも散歩が好きだという。
ホームレスの自作・自演活動
今回バンクーバーで自作自演する「Subway Stations of the Cross」では一人でホームレスに扮する。実際トロントの路上で偶然ホームレスに声をかけられ、延々と日常生活、歴史、宗教や文化など話を聞かされたのがきっかけとなる。彼の脚本は全て自分が実際体験したことを書き続けていて、今回はさらに違うスタイルで観客に問いかける。
最近はアジア系の俳優、歌手も増えた。アメリカでもごく自然に出演していてすごくうれしいと語る。今回のバンクーバー公演と同時に「Kim’s Convenience」のTV化の話が進んでいる。さわやかな笑顔が魅力的なインスさんの次のステップが待ち遠しい。
「Subway Stations of the Cross」のポスター
Subway Stations of the Cross:
11月19日(水)〜23日(日)
Pacific Theatre (1440 West 12th Avenue, Vancouver)
チケットの問い合わせは、
https://tickets.pacifictheatre.org/TheatreManager/1/online
http://inschoi.wix.com/inschoi#! (ホームページ)
https://www.youtube.com/watch?v=JXcNppPtHhs (Youtube)
(取材 ジェナ・パーク)