石川ファミリー柔道クラブ代表の泉孝雄さん

 

そのため、「強い柔道家の育成に重点が置かれる傾向を感じます。もちろん、強くしていく技を磨くべきですが、その前に自分を安全に、そして相手にも安全な練習ができることが大前提。そのためにはお互いに助け合って、技を磨きあうと言う気持ちを持たないと上達はむずかしい。 そして、覚えた技を実際に使い、自分の技の上達度を確かめる、その延長に試合がある」と、語る石川ファミリー柔道クラブ代表の泉孝雄さん。
強いばかりではなく、1882年(明治15年)、嘉納治五郎が柔道を創始した時の精神、「人間教育への手段」があらためて見直されているようだ。
この柔道クラブの子どもの部の練習には、指導者の人数が多いのが特筆される。現役の警察官、医師、ベテランの柔道家など多士済々。実にきめ細かく、技を教えるとともに、安全に気を配っていることが見て取れる。
なお、「日本で柔道の修行された黒帯の方、ぜひ、私たちの柔道クラブへ稽古を付けに来てください」とのメッセージであった。

 

『今はイジメには直面していないけれど、いつそんな事態に直面するかもしれない』

練習に来ている子どものお母さんたちに話を聞いた。「今、子どもたちの学校ではイジメ問題は発生していないようです。学校でもこの問題には相当気を配っていただいているようです。しかし、この先、いつ発生するかもわからないのがイジメ問題。そんなとき、動じないような人間に育ってほしいと願って、柔道を習わせています。何より、子どもたちが楽しみに通っているわけですが、今の時代、『取っ組み合いの喧嘩や遊び』をすることもない中、柔道で体と体をぶっつけ合いながら楽しんでいるように思います」というのが大方の意見であった。  イジメ問題は、子ども社会に限ったことではなく、大人社会にもあり、フィジカルな面と同時に精神的な強さを育成し、相手を思いやる心を育ててほしいものだ。

 

 

日本伝統の『道』がイジメ撲滅作戦のきっかけに

 

日本伝統の『道』がイジメ撲滅作戦のきっかけに

「柔道に限ったことではないのですが、あらゆる日本武道、そして、書道、華道、茶道、 など日本伝統の『道』の修行には礼に始まり、礼に終わる作法が脈々と流れています。その作法の中には、共通して、相手を敬う心、仲間づくり、助け合う関係を養う精神が織り込まれています。この『道』を大きく広めることは、イジメ撲滅作戦のきっかけとなる、と感じています」と、泉さんが語るように、日本武道の奥に流れる精神は、心身ともに鍛えることにあるだろう。


礼に始まり、礼に終わる

 

今、イジメ問題は、単に暴力といったことばかりではなく、ネットを使った陰湿なイジメがはびこるなど、対処療法だけでは解決できない領域にあるといわれる。そんな複雑な環境にあっては、イジメに屈しない自分自身の強い心身を鍛えていくことが重要で、それは同時に、人生のさまざまな苦難への挑戦にもつながるだろう。

(取材 笹川守)

 

柔道着の帯を使って縄跳び。遊びの要素を加えて楽しく学ぶ

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。