公演後、談笑するトモエアーツのコリーン・ランキさん、上遠野和彦さん、在バンクーバー日本国総領事岡田誠司夫妻

 

トモエアーツの理事長、ゲーリー・マトソンさんは公演の実現について、在バンクーバー日本国総領事館、およびスポンサーのJapan Foundation、日本・カナダ商工会議所、リステルホテル、Isabella Winery、Hammerberg Lawyersの協力があったこと、そして何より、「観客がいなければショーは行えない」と会場を埋め尽くした400人の観客に感謝のことばを送った。
続いて、挨拶に立った在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏は、イベントが総領事館125周年記念行事の一環であることに触れ、長きにわたって、日本とカナダが良い関係を保っていくには、交流が大切と力を込めた。今回の能もその一例で、能楽公演による文化交流を通して、1400年の歴史を持つ金春流の洗練された芸術を楽しんで欲しいと述べた。

2009年にユネスコの無形文化遺産に登録された能楽は、重要無形文化財でもある。金春流はその能楽の流派の中でも、最も歴史が古く、聖徳太子の後見人と言われた秦河勝を初世としている。
公演は2部構成で、まず、 金春流宗家嫡男である金春憲和さんが「翁(おうな)」を披露した。特にあらすじはなく、儀式的な翁は、素謡(すうたい)、つまり舞や囃子なしで謡のみ。同じ伝統芸能でも歌舞伎などと異なり、派手さがなくシンプルなのが能の特徴だ。踊りや音楽なしに、謡の声音や抑揚だけで、会場の多数を占めたカナダ人を魅了する憲和さんは、さすがの力量だ。

メインの演目は「羽衣」だった。三保の松原に住む漁師、白龍が、松の木にかかった美しい羽衣を見つける、有名な羽衣伝説をもとにしたものだ。伝説では、漁師は羽衣を持ち主の天女に返さず、天界に戻れなくなった天女を妻にしてしまう。しかし、能の羽衣では、舞を見せてもらうかわりに、天女に羽衣を返す。
シテ、すなわち天女を演じるのは、昨年の「能Meets カナダ」でも来加している山井綱雄さん 、そしてワキの白龍は舘田善博さん。観客が息をつめて見入る中、小鼓、大鼓、太鼓、笛の囃子、謡、二人の舞で幽玄の世界が繰り広げられた。

能を見るのは初めてという、カナダ人女性は、「日本語は分からないので、セリフを聞いても、何を言っているのか理解できないのですが、最初にトモエアーツの人が英語で演目について解説をしてくれたのがありがたかったです」と語った。そして、「動きが少なくて、まるで静止画のような繊細な世界なのに、登場人物、特に天女の哀しみ、そして羽衣を返してもらったときの喜びが理解できました」という。
同様の感想は日本人観客からも聞いた。「能面というのは表情がありませんし、謡の日本語も難しいのに、二人の登場人物の心の動きがしっかりと伝わってくる。日本の古典芸能はすごいなと思いました」(演劇をしているという女性)

リステル・カナダ社副社長で、日本・カナダ商工会議所副会長の上遠野和彦氏は「日加間の友好関係を更に深めていくには、ビジネスのつながりだけではなく、このような文化交流は重要です。多くのカナダの皆さまが日本の伝統文化に興味を持って下さり、感謝しております」と思いを述べた。今回の公演については、1週間前には前売り券が売り切れるほどの評判で、今日も多数の人が何とか能を見たいとキャンセル待ちの形で待っていたそうだ。

(取材 西川桂子)

 

トモエアーツの皆さん。右からゲリー・マトソン理事長、エドワード・タカヤナギ副理事長、上遠野和彦さん、アーティスティックディレクターのコリーン・ランキさん、まい子・ベアさん、ヨリコ・ギラードさん、澤田泰代さん

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