糸東流空手道正晃会・佐藤義晃師範
我慢、「負けない心」を鍛える寒稽古
順風満帆に思えても、いつ何が起きるかわからないのが人生。困難に負けず、じっと我慢が必要な時もある。あえて冷たい海中に飛び込む…「勝つことよりも、負けない忍耐力を鍛える」…糸東流空手道正晃会の象徴的な稽古法なのだ。もちろん、礼儀は、最優先。それは、お辞儀だけではない。目上を敬い、やさしさの尊さを日常の稽古の流れのなかで教えていく、いや、覚えていくというのが正しいかもしれない。
この、いかにも日本的な精神性は、今、民族を超えて共感の輪が広がっている。正晃会の黒帯、有段者の顔ぶれが、日系人ばかりではなく多彩な民族の人で構成されていることからもうかがえる。
最近、中国系の子どもの入門者が増えていることも特筆もので、「礼儀作法をおぼえさせたい、忍耐力を付けさせたい」という親が多くなった。中国の『一人っ子政策』、『過ぎるほどの豊かな経済環境に育った』最近の一部の子どもに中国系の親たちは危機感を覚えている人が多いという。もともと国際感覚に優れた彼らは、敏感に反応し、インターナショナルに通用する人間を育てるための手立てに、空手の技だけではない、精神性を身に付けさせようと入門を希望する。確かに、礼儀作法などは親が教えるばかりではなく、こうした集団の力を借りるのも一助となるだろう。
マートン・マモル・ホリタ会長(左から2人目)
「STOP!BULLYING」イジメに負けない
今、子ども社会の深刻な問題が「イジメ」だ。世界中に蔓延し、増加し、陰湿化している。その原因追求や対策は講じられているが、いずれも決め手に欠き、増加の一途だ。社会が成熟化する過程で避けられない事象なのかもしれないが、手をこまねいてはいられない。いつ我が身辺に及ぶかもしれない喫緊の課題だ。
子どもの身をイジメから守る一つの手立てに空手が注目されている。糸東流空手道正晃会・会長のマートン・マモル・ホリタさんは、イジメ行為に対して空手の具体的な効果を次のように述べていた。「まず、気合を込めた大きな声を上げて助けを呼ぶことができる。日常の練習の中で、気合の発声を鍛えているため、強い声に相手をひるませ、まわりにも届く。そして、争いの中に身を置いても冷静でいられる度胸がついている。自分に自信がつけば、日頃の態度が堂々としてきて、イジメを寄せつけないようになる」という。
一般的にイジメの被害に遭いやすい子どもは、消極的で、ひ弱な感じの子に多いといわれる。イジメを寄せつけないようにするのが一番の対策。日頃、空手のファイティングゲームの中に身を置いておくことで恐怖心が克服でき、堂々とした態度、つけ入るスキのない態度になる。また、空手練習の成果に「生活態度が積極的になった」という評価をする父兄も多い。 空手というと、『暴力』、『危険』をイメージされやすいが、実際は、ディフェンスがモットー。相手からの暴力に対しても防御を優先する技を身につける。基本に則した『形』、『振る舞い』を習得する中で、自らを高めていく。また、インストラクターをはじめ、先輩たちも暴力をふるうことを厳しくいましめ、真剣に指導する。暴力とは無縁の空手道なのである。
こうした精神性は、日本武道に共通したもので、糸東流空手道正晃会・師範の佐藤義晃さんは「バンクーバー地区にある各種の日本武道の指導者に呼びかけ、『STOP BULLYING』運動をしようと思います。イジメに遭って困っている子どもたちに少しでも役に立ちたいですね」と、優しい笑顔で語っていた。
(取材 笹川 守)
寒さもなんのその!気合で寒さを吹き飛ばす!