Nurse Practitioner
野々内美加(ののうちみか)さん
プロフィール:ののうちみか。1989年国立岡山病院附属看護学校卒業後、同病院に正看護師として就職。1998年に学生ビザで渡加。翌年、カナダの正看護師(Registered Nurse)を目指し始める。2001年資格試験に合格後、サレー・メモリアル・ホスピタルに勤務。2005年同院にホスピス緩和ケアが新設され移動。Clinical Nurse Specialist (以下CNS)を目指し大学院に入学するが、途中でNurse Practitioner (以下NP)コースに編入し2013年夏に卒業。現在はNPとして地域でプライマリーケアを提供している。 特定看護師(Nurse Practitioner)とは、看護師でありながら医療行為(診断、治療、処方、処置)を行う資格がある登録看護師。日本のNPは医師の指導のもとで医療行為を行うように設定されているが、北米のNPは独立した判断に基づいて医療行為ができる。 美加さんはこれまでのプライマリーケア・モデルを逆手に取り、診療車で自ら患者を訪れて医療を提供しており、訪問医療の中でも新しい形の診療を行っている。渡加してから現在の仕事に至るまでの道のりを話してもらった。
診療車の前でホームレス・アウトリーチのスタッフと共に微笑む美加さん(右端)
最初にカナダに来たきっかけは?
30歳になる前に何か大きなことをしたかったし、仕事にも少し疲れ気味でした。そこで苦手意識があった英語を学ぶために一年のつもりで渡加しました。一年間仕事を離れてどれほど看護が好きだったかを実感し、看護の仕事に戻りたくなりました。一年間過ごしたカナダは雄大、そして自由で一生ここに住みたくなりました。幸いカナダで看護師は不足している職業で、就職できれば就労ビザが出るので挑戦してみることにしました。
現職に就くまでの道のりは?
看護師だった時は、ホスピス緩和ケアが専門で天職だと思っていました。日本の看護雑誌に連載を掲載し、講演などを積極的にしていました。ホスピスのPatient Care Coordinator をしていた時、ホスピス緩和ケアのCNSになりたいと思い、大学院行きを決意。半学生・半看護師の生活が始まりました。4年間で卒業を目標にしていましたが、2年目の半ばに、目標としていたCNSが職場を去り、CNSを目指している自分の将来に不安を抱くようになりました。その頃に、カナダで初めてのCNSとNPに関する報告書が出され、それを読んでいるうちにNPに興味を持つようになりました。アメリカと違い、カナダBC州では緩和専門のNPは存在せず、NPを選ぶと緩和と離れることになるのでかなり悩みました。結局、緩和にはいつでも戻れると決意してコースを変更。NPコースに編入し2013年夏に修士号を取得、資格試験に合格しNPとなりました。
卒業後は大きな組織を離れ、個人経営のクリニックで働いていました。仕事内容は好きでしたが、時間数が少なかったので別の仕事を探しました。古巣のフレーザーヘルスへは、地元のフルタイムの仕事だからと軽い気持ちで面接に行き、仕事内容に興味を持ち、現職に2014年4月より就くことになりました。
今の仕事の中でのチャレンジ、やりがいは?
プライマリーケアは、ファミリードクターと同じ仕事です。でも、私の患者さんは限定された患者層 : メンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層です。医療離れをしてしまう人が多いので、疾病の進行が平均より早く、疾病比率も高く、病院の滞在日数も多く、一般的に難しい患者層と呼ばれる人たちをターゲットにプライマリーケアを提供しています。医療離れをしてしまう原因は、予約が守れない、忘れっぽい、診療所などで市民に服装や匂い、態度について白い目で見られるから行きたくない、医師とうまくコミュニケーションがとれない、電話も家もない、メンタルヘルスや薬物依存があるためにファミリードクターから断られるなど、理由はさまざま。
そのような患者層を相手に、いかに医療離れを防いで健康に興味を持ってもらうかがチャレンジです。今までのプライマリー・ケア・スタイルで、診療所で患者が来るのを待っていては医療離れを防ぐことはできないと、移動診療車に乗り込み、ホームレス・アウトリーチ・ワーカーと町中を巡回する日を週に1〜2日盛り込むことにしました。駐車場でも、ビルの裏通りでも、ブッシュキャンプと呼ばれるホームレスの居住地を訪れて医療を提供します。難しい患者層といわれている分、上手くいくと“やりがい”を感じます。現職は未だ前例のない仕事なので、自分でビジネスモデルを計画し実行する面白さもあります。
仕事以外の時間は どのような活動をしていますか?
自然が好きなので、ハイキング、散歩、スキーが趣味。食べることも好きなので料理も好きで、編み物、裁縫を好む家庭的な面もあります。3人の子どもたちと夫、自分の家庭は宝物です。
これからの抱負は?
今の仕事を始めてもうすぐ一年。事業拡大の計画もありますしNPとしては新米ですので、しっかり経験を積んでいきたいです。もっと余裕ができたら、日本で薬物依存医療の啓蒙活動をしたいと思っています。
ご自身の仕事や興味のあることについて、ブログ : http://blog.goo.ne.jp/missy0806を綴っている美加さん。カナダに移民してから看護の世界で自分なりの道を歩み続けている姿に共感すると共に、憧れさえ抱いた。これからの美加さんの益々の活躍が楽しみである。
(取材 北風かんな)