2017年4月13日 第15号

 『為せば為る、為さねば為らぬ何事も』という上杉鷹ようざん山の言葉がある。この上杉鷹山を尊敬をしていたというケネディ大統領が、在任中に創設したという『平和部隊』なるものがあった。おもに医療チームを東南アジアなどの(当時)貧しい国々へ派遣をしていたが、それと同じものが、後年の日本にも『海外協力隊』として発足をして、20代から30代の技術経験のある若者を東南アジアや南の島国などに派遣をしていた。

 まだ、十代で高校生であった小生はお金もないのに、何とか海外に行ってみたいと思っていたので、この海外協力隊の体験談などをよめば、ますます、興味がそそられたのである。

 高校三年生の時、同じクラスで知り合った友人のお兄さんが陶器の技術指導で海外協力隊員としてフィリピンにいるというので、友人に頼み、お兄さんの連絡先を教えてもらい、「どうしたら協力隊員になれるのか?」を手紙につづり、フィリピンに居る友のお兄さんである東(あずま)さんに手紙を送ると、しばらくして返事が届き「君の手紙は本部に送付したから」と返事があった。

 東さんは陶芸家でもあり、確か日展陶芸の部門で入選されたことがあったように記憶している。彼がフィリピンに派遣されて現地に着いてみると、指導するための設備は何もなく、彼自身が現地の人と一緒になり、陶器を焼く窯を作ることから始めなければならないという状況で、まさに陶器作りの一から始めるという状態であったという。初期の海外協力隊員達は、多かれ少なかれ同じような状態であったことは、当時の協力隊の機関誌を読めば分かる。

 その後、東京で海外協力隊事務長の講演会を聞く機会があり、大いに小生の士気が高揚した。僕自身も親善交流団の一員として、その秋に東南アジアの国々に行く前であり、なおさらのことであった。東さんのいるフィリピンも訪問予定であった。

 この同じ親善交流団のメンバーに僕より一つ年上で、東京のガールスカウトで活動している髪の毛を短くボーイッシュにしている元気な女性がいた。その彼女が海外協力隊の講演が終わった後で、僕に「佐藤君の手紙を協力隊機関誌で見たわよ」と言う。何のことかよく分からず彼女に聞いてみると、少し前の機関誌に、東さんが東京の本部に送付された僕の手紙が掲載されてあったのである。ぼくがまったく知らぬことであった。初めて僕の文章が公に活字となったのである。

 その後、僕はカナダに農業の実習のために渡加をして、そのままカナダに留まり現在にいたり、元親善交流団のグループの同窓会に参加する機会もなく、ガールスカウトの彼女とも会う機会はない。今頃になり、あの時、元気にしていた彼女のその後の人生はいかようであったのかと思う。

 このグループの通訳をしていた十歳年上のSさんと僕は、特に親しくなり親善交流から帰国後も連絡を取り合っていた。その彼が、同じグループの熊本出身の方と結婚をされたが、ぼくは彼から「絶対だれにも言うなよ!」と口止めをされので、他の親しい仲間達に、今日まで話したことはない。時折送られてくる同窓の便りを見れば、Sと結婚したはずの彼女の名前は、依然として旧姓のままである。友人のSはもう70歳を超えているはずだから、疑うならば、病死したか、離婚したかを勘ぐってしまうのである。若い頃の仲間たちは、みな退職をして、老境となりどうしているのか思いを廻らすのである。

 僕は自営業のガーデニングの仕事を異国の空の下で、いまだに続けている。協力隊員としてフィリピンへ行った東さんを紹介してくれた友は、退職後はシニアボランティアの技術者として、インドネシアヘ行き、その後から現在までは、その南の島国で、大使館職員待遇でエンジニアの仕事をしているという。時折、現地からのEメールのレポートが届く。老いてますます元気なようであるが、健康のためにと若い仲間達とソフトボールしたら足の筋肉が肉離れをしたという話である。  

 老いぬれば無理はできぬが、第二の人生があるのも楽しからずである。  

 ギリシャ神話「狂えるヘラクレス」より。  

 「春こそわがが歓び。老年は目の輝きを奪い。アイトナの巌より重く圧おさう。東なる王者の富も、黄金溢るる館も、青春をあがなうには足らず。富に驕るも貧に泣くも、青春に優るものなし。うとましき老人よ、願わくば海の底に深く沈むか(中略)、もし神が人間の知恵を具え給うならば『徳』の定かなる徴として二度の青春を与え給いしものを。岡道男訳」

(終)

 


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