2017年5月25日 第21号
60秒で泣けるなんて思いませんでした。 これは実話です。…こんな画面からCMは始まります。
ある男の子が制服を着て廊下を歩いています。男の子はガンを患い、学校をしばらく休んでいたのですが、今日から学校に行けることになったんです。でも、うれしいはずの彼の顔は曇っています。なぜなら彼は抗がん剤の副作用で髪の毛がなかったからです。他の教室からたくさんの生徒が物珍しげに彼を窓ごしから眺めます。廊下ですれ違った先生まで彼を見て振り向きます。 そして彼のクラスの前に着きました。「ぼくを受け入れてくれるだろうか…。ひやかされたりしないだろうか…。ぼくを覚えてくれてるだろうか…」 。不安な中、彼は勇気を出してドアを開けます。すると、そこには黒いニット帽をかぶったクラスメートの姿がありました。 驚いて、クラスの中央に彼が行くと、皆それぞれニット帽を外したのです。 なんと、クラスメイト全員が髪を坊主にしていたのです。 一斉にではなくて、それぞれの感覚でニット帽をはずし、立ちあがって彼を見つめます。 そして一人の生徒がこう言いました。 「お帰り、ジョン!」。一瞬で泣けました。これを読むたび、老婆の胸がジーンと熱くなり涙が出るのです。
先日、ある映画会に行きました。会場で映画会主催メンバーの方が難聴の私を最前列中央映写機隣席に座らせて下さいました。よたよたするこの老婆を、黙って優しく席に案内して下さったのです。本当に音がよく聞こえ、素晴らしい映画を鑑賞できました。映画終了後、ほっとして談話会にも参加し、そろそろ終わり時間になった時、一人の女性が老婆の真後ろで立ち上がり、自己紹介後、急に大きな声で「澄子さん、難聴でも、お話よく聞こえましたか?」と突然言ったのです。
「わー!」、老婆は赤面。そして、びっくりしましたよ。会場も一瞬、「しゅーん」と。難聴で歩行難の、この老女は不便な生活をしていますが、誰にも同情を仰ぐ気持ちはないし、「難聴」宣伝もしてほしくありません。でも、ご理解してほしいです。多分、老婆の難聴を知っている、この映画会の数人のメンバーが、これまた「黙ーって」前列席に座らせて下さった。その優しい心遣い。これは老婆にとって生涯忘れられない深謝となり、逆に「貴方、難聴」と大勢の人前で紹介されるのは、やはり悲しかったし、ちょっと恥ずかしい。難聴のため、よく聞き違えたり、聞こえてなかったり、バカなことを言ってしまったり、年がら年中失敗しています。でも、「私、難聴でごめんなさい、よく聞こえていなかったの。わっははは!」と皆様の優しい思いやりとご理解で、ことは大抵笑って終わります。
ところで、その映画は「アルツハイマーを患った老女」の治療記録映画で、温か〜い笑いと感動のひとコマひとコマ、観る人それぞれの立場で、一緒にいろいろ考えさせられる素晴らしい記録映画だと老婆は思いました。 「お帰りジョン」ではなく「僕がジョンと呼ばれるまで」という題名でした。
許 澄子