2017年5月11日 第19号
朝、目が覚めたら台所の全ての引き出し、食器戸棚、書類入れなどが、さぁーっと開けっ放しになっている。アレー、昨晩寝る時、私どうして閉めなかったのだろう。
私の寝ていたソファの後方サンルームへ抜けるドアも、裏庭へのドアもパーっと開いていた。そして、ディナーテーブル上に置いた買ったばかりのアップルのラップトップがない!「ああ、泥棒だ!」。そこで、慌てて911に電話する。と、間もなくポリスが2人来た。
ポリスは家中見て回って庭に出た。老婆もポリスについて歩いた。わー、緑の芝生の上にあるわあるわ。あらゆるものが家から運び出され、物色後にとる物はとり、残りは捨ててある。宝石箱などの箱は捨て、中身は持って行った。あんな箱の中に宝石なんて入れておくものではなかった。その上、壁に掛けられた私の車のカギを使い、拾得物を車に乗せ、泥棒さんは去って行ったのだ。
ポリスから一枚の名刺とケース番号をもらった。とられた車の捜査を行うことになった。まあ、いろいろ面倒なことになったが、自分でも驚いたのは、いくら「難聴老女」でも、自分の寝ている周り1メートル足らずの所で起きていることに全く気付かず熟睡していた『大ボケ』に呆れた。けれど友人達に言わせると「あなたが眠っていたから無事だったのよ。目を覚まし起きて泥棒に攻撃したら、怪我していたかもしれない、殺されていたかもよ!」と脅かす。
車はリッチモンドの川沿いに捨てられ、多少の修理が必要になっていた。いろいろな物がなくなったが、保険でほぼ戻ってきた。しかし、思い出いっぱいセンチメンタルな理由で大切にしていたリプレイスできない物がなくなったのは悲しかった。
あの泥棒、この家の物のなさに驚いたのではないだろうか? 本当に金目のものは何もない。それでも何だかいっぱい持って行った。アップルのラップトップと、いくつかの宝石くらいかなぁ、彼のお金になったのは。骨折り損のくたびれ儲けで、ある意味ちょっとかわいそう。そこで思い出したのが小林一茶と泥棒の話。「やれうつな蠅が手をすり足をする」。ある時、優しい一茶の家に泥棒が入ったが、とる物がない。そこで一茶は自分がまとっていたお布団を泥棒にあげると言った。
それから数日後、近所の住人(50代)の男がやってきて、「自宅の庭に、この袋が捨ててあった。中にあなたの住所があったので届けに来た」という。それには住所録など私にとっては大切なものが入っていた。しかし、その人は自分の家がどこかを教えない。彼にお礼を、と思ったが、老婆の勘でその人が泥棒関係者? そんな気が今でもする。分厚い住所録を泥棒が何かの目的で持って行き、見たら「日本語!」。彼らには使いものにならないが、持ち主にとっては大切なものだ。返してあげようと思ったのだろうか? そんな優しい泥棒っているのかな?
あれから何年も泥棒は我が家には来ない。なぜって、もうとる物がないからねぇ。
許 澄子