2019年8月15日 第33号

 自己肯定感と「感情のスペース」 気持ちが落ち込むことがあっても基本的な自分に対する評価はさほど揺らがないのが自己肯定感です。この姿勢は、自分を省みない姿勢ではありません。むしろ肯定感が育っているからこそ、失敗しても、ネガティブなフィードバックを得たとしても、気持ちを持ちこたえて、改善点を見直すことできます。だからこそ、 振り返りができて、前向きに困難を乗り越える力となってゆきます。 

 このような肯定感を育むときに大事なことの2番目は「感情のスペース」です。感情のスペースとは、感情を否定せずに、受容するスペース。このスペースで感情を調整できる力を育てることができます。

 カナダでは、この気持ちを調整する力は「セルフ・レギュレーション」と言います。子供であれば、まずは大人が一緒に調整してあげること(コ・レギュレーション)で、ネガティブな感情を許可する自分の心の中の受容スペースを育て、のちに自分で調整する力へ移行します。例えば、赤ちゃんが泣いている時、それを親が抱き上げて、不快な気持ちを一緒に収めてあげる。「悲しみ」を否定せずに一旦受け入れてあげる。子供が感情を爆発させた時、他者や自分を傷つけるような行動があった場合には、その感情を一旦収めてから、その行動がなぜ適切な方法ではないか、また適切な形での調整方法(例えばマインドフルネス、簡単に呼吸を整えることなど含め)を教えてあげると、子供達は学ぶことができます。年齢に応じての対応法はありますが、子供でも大人でも、感情に支配されている最中に頭で理性的に考えることは難しいのです。感情を正すのではなく、行動を改める。それには感情の受容スペース、すなわち感情を否定しない受け皿がまずは必要なのです。

 人の持つ感情や気持ちに「良い」・「悪い」という判断はありません。喜怒哀楽、どんな感情も誰もが持つ当たり前の感情です。しかし感情を表現する場もなく、否定されたり、受け止めてもらえなかった場合、その感情自体を良くないこと、悪いものと捉えるようになります。するとその感情を感じることを避けたり、否定したりするようになります。この状態でいると、その感情に対して、自分にも他者にも共感が難しくなり、また本当の自分の気持ちを隠すようにもなり、助けが必要な場合でもそれを求めることができません。結果的にイライラや不安感も高まりやすくなります。それがいつしか、ネガティブな感情そのものが自己評価に繋がり、「ネガティブな自分」に様々なレッテルがつき(例えば自分は弱いなど)、「そんな自分=良くない、悪い」という図式の中で、肯定感がなかなか育たず、自分自身が揺らぎやすくなります。

 とはいうものの、ネガティブな感情の中でも「怒り」は少し厄介な感情。本当は、とてもポジティブなエネルギーに変わる力にもなり得る感情ですが、「怒り」に捕まってしまう事もあります。次回は、感情のスペースの続編で「怒り」 について詳しくお話ししたいと思います。

 

自己調整力についてオススメの本
『「落ち着きがない」の正体』スチュアート・シャンカー (著)、 小佐田 愛子 (翻訳)
「子どものためのマインドフルネス」キラ・ウィリー (著)、 アンニ・ベッツ (イラスト)、 大前 泰彦 (翻訳) (お子さんだけでなくても大人でもわかりやすいです)
HP:http://www.youkikato.com/japanese.html

 

 


加藤夕貴
MA, RCC ((BC州認定臨床心理療法士)、認定表現アーツセラピスト  想像して創造する遊びの中で、気づきと心の成長を促す、表現アーツセラピーを中心に、バンクーバーと日本で心理カウンセリングやワークショップを行なっている。

HP:http://www.youkikato.com/japanese.html

 

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